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第46話 招かれている場所

 その次の日曜日、私はオンライン礼拝担当として、一番後方の席でスマホを前にスタンバっていた。


 そして今日の礼拝は初めて録画して、一般公開に踏み切ることになっていた。


 これはもうすでに教会員の人たちには承認を得ていた。


 出席者は薄いモザイクをかけるというのも、皆さんの心理的ハードルを下げたようだ。


 オンライン礼拝は祈ちゃんをあやしながら夕香さんも見ていると言っていたし、あともうひとつ驚いたのはあの池畑さんも見ているらしいということだ。


 あの鍋を囲んでいたとき、牧師が「池畑さんから電話が掛かってきた」と言った。


「池畑さん、感情的になって申し訳なかったって謝っておられたんです。そしてオンライン礼拝をずっと見ているって。高辻さんにも悪いことをしたって言っておられました」


「いえ、もう気にしていないので」


「池畑さん、クリスマス礼拝から出席したいって言っておられましたけど、高辻さんは大丈夫そうですか? こちらとしては、来たいと言っておられる方を拒むことはできないので……。せめて洗礼式を終えてからがいいとおっしゃるなら、来年からにしてもらうことはできますが」


「いえ、大丈夫です。池畑さんにもそうお伝えください」


 正直、池畑さんの名前を聞くとまだ心が緊張するけど、ここはちゃんと守ってくれる場所だという信頼がある。


 だから大丈夫。


 そんなことを思い出しながら、講壇のマイクの横につけた集音マイクの音声も確認する。


 オンライン礼拝でもたまに音声が聞き取りにくいという声が上がっていて、安めのマイクを予備費で追加で購入してもらっていた。


 これで一般公開しても問題ない音声が取れるはずだ。


 そして今日の礼拝で取り上げる聖書の章は「コリントの信徒への手紙二 12章」


 私が出席した2回目の礼拝でちょっと泣きそうになった「弱さこそ神さまの愛を受けとる器、弱さがあるからこそ人の強さは生まれる」を説いた章だ。


 これなら多くの人に刺さるんじゃないかと思ったのもある。


 そして画面として映えるもうひとつの物があった。


 クリスマスツリーだ。


 私が先週、勉強会をしたので参加できなかったんだけど、礼拝後に皆さんで飾り付けたそのツリーは高さが150センチほどあって、なかなかの存在感があった。


 それを画角に入れるため微調整していると、燭台の2本目の蝋燭が灯った。


 そして礼拝が始まった。



─────────────────────




 礼拝後は3回目の勉強会があった。


 この日は神と子と精霊を意味する三位一体について。


 そしてその週の水曜日には4回目の勉強会で改めて教会員の義務である「献金、奉仕、布教」について。


 学べば学ぶほどキリスト教の奥深さに触れていく。


 そしてついつい熱く語る榊原牧師を見て、いつか夕香さんが言っていた「キリスト教オタク」という言葉が思い浮かんだ。


 多分榊原牧師は心の底からキリスト教が好きなんだと思う。


 牧師は大学を中退して神学校に行くことを決めたと言っていたけど、端から見たら牧師になると決めたと思えるこの決断は、キリスト教的には「召命を受けた」と言い、イエス様が弟子を選んだように、牧師も神さまに選ばれたというようだ。


 そしてそれは私たち教会に通う人たちも含まれている。


 以前牧師は教会が自分に合うかで見極めるように言っていたけど、結局は私たちも教会に招かれているんだ。


 去年のクリスマスイブにこの行友教会に吸い寄せられるように入った私にとっても、招かれたという言葉はしっくり来るような気がした。



 その翌週の日曜日、3本目の蝋燭に火が灯った。


 この日は牧師に用事があるとのことで勉強会はなかったので、私は早めに家に帰り先週録画した動画を確認し調整したあと、動画サイトにアップした。


 そのリンクを教会のホームページ、公式インスタに貼り、そして牧師の妻ブログにも貼ってもらった。


 これで少しでも行友教会に興味を持ってくれる人が増えればいいけど。


 それを願いながら動画がアップロードされている様子を見守った。




 その次の水曜日、5回目の勉強会を控えていたので定時で上がるよう仕事を進めていた。


 ところが─────


「高辻さん、ごめん。今日、桃谷バイオさん対応できるかな?」


 声をかけてきたのは課長だった。


「え……」


「どうも不具合が起きてるらしくて営業にも来てほしいって言われてるんだよね。桃谷さん、高辻さんが担当だよね?」


「そうですけど……」


 言いながら時計を見る。


 時間は13時過ぎだけど、桃谷バイオは隣の県だから客先に出向いていたら絶対に間に合わない。


 どうしよう、と一瞬迷ったけど、私は課長の方を向いて言った。


「すみません、今日はどうしても帰らないといけないので。桃谷バイオさんの案件は一課の木下さんも対応可能です。そちらに聞いていただけますか?」


 いつになく私がはっきりと断ったので課長は戸惑っていたようだけど、「分かった」と言って一課の方へ向かった。


 それを見ていた隣の中矢さんが感心したように言った。


「やるじゃん」


 私はにっこりと返した。


「仕事以外に守らなきゃいけない柱ができたんで」






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