表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/51

第39話 蝋燭を灯す準備

「分かりました。ではそれに向けて準備と計画を立てましょう」


 そう榊原牧師が言ったことで、私がクリスマスに洗礼を受けることが決まった。


「あ、でもその話を具体的にする前に、着替えてきていいですか? 堅苦しいのは実は苦手で……」


 牧師は礼拝後、すぐに私の話を聞いてくれていたので、まだスーツのままだった。


 牧師が二階に上がり着替えている間、祈ちゃんを囲んであれこれ話す。


「どんどん顔も変わってますね。肉付きが良くなったと言うか……」


「もともとビッグベビーですしね。でも起きてるときは抱いてないとすぐ泣くんです」


「そうなんですか? もう5キロ近いですよね。ずっと抱いとくの大変そう……」


「家事をするときはスリングを使ってます。これですけど……」


 そんな話をしてるとインターホンが鳴った。


「あ、ピザが来た」


 言って夕香さんは立ち上がろうとしたけど、一瞬考えて私と二宮さんを見た。


「すみません、ちょっとだけ祈を抱いといていただけますか? 置くと泣くんで」


 すると二宮さんはさっと「無理です」と辞退したので、私が抱かせてもらうことになった。


 差し出されたウェットティッシュで手を拭いたあと、そっと抱かせてもらう。


「ここで頭を支えて、お尻をこうやって……。あ、そうです。それじゃお願いします」


 そう言って夕香さんは玄関の方へ行ってしまった。


 不安定な抱き方で祈ちゃんが泣かないか心配だったけど、祈ちゃんはご機嫌に手足を動かしていた。


 表情もくるくる変わり、いろんなものを目で追っている。


「かわいいですね……」


 二宮さんもしみじみ言ってくる。


 5キロ近い重さと言うのもあるけど、思ったより温かくズシッとした命の重みがあった。


 この重さの祈ちゃんを寝てるとき以外は抱いてるのか……。


 1ヶ月で1キロ増えたって言ってたから、これからもどんどん大きくなっていくわけで、そう考えると世の中の親御さんはすごいなと思った。


 そう思っているうちに、ピザのケースを抱えた夕香さんと着替えを済ませた牧師が現れた。


 牧師はそのまま嬉しそうにキッチンへ行き、冷蔵庫を開けている。


「二宮さん、高辻さん、良かったら飲まれません? 僕、発泡酒飲ませてもらいますけど」


「発泡酒?」


「はい、一週間の楽しみなんです」


 そう言いながら見せてくるのは、のどごし生だ。


 二宮さんが「お酒は飲めないので」と断り、私も遠慮することにした。


 すると牧師はがっかりしたような顔をしたけど、そのまま発泡酒をテーブルに置いた。


「お二人とも何飲まれます? ルイボスティーなら常温で作ってあるんで、それでもいいですか?」


 夕香さんの質問に私も二宮さんもうなずき、コップにつがれたルイボスティーと牧師の発泡酒、ピザのケースが並べられ全員が席に着く。


「食前の祈りをします」


 牧師の祈りのあと「いただきます」と言ってみんなで食べ始めたんだけど、発泡酒を手にピザを頬張っている牧師は、さっきカルトを厳しく斬っていた人とは思えなかった。


 二宮さんも「先生、昼から飲んでたんですね……」と驚いている。


 牧師は慌てて答えた。


「日曜日だけですよ。この一杯のために説教作ってると言っても過言では……、あ、冗談です。ここもブログに書かないでね」


 そんな牧師を夕香さんは冷めた目で見つめる。


「礼拝後の楽しみはピザと発泡酒。親しみやすさをブログで書くのはいいと思うんですけど、それ書いたら『この人大丈夫?』って思われないか心配になります」


「確かG1レースがあるときは、それも見てるってブログに書いてましたよね」


「日曜の昼からピザと発泡酒片手に競馬観戦とか、立派なおっさんじゃないですか」


「まあ、悪いことしてる訳じゃないし書いても問題ない気も……、いや、どうだろう」


 女性3人に見つめられても牧師は我関せずでピザを楽しんでいた。



 ある程度みんなでわいわい喋りながら食べていると、牧師が二本目を取りに行こうとしたので、私は慌てて言った。


「すみません。先生。洗礼までのスケジュールはどうしたらいいですか?」


 すると牧師は、はっと我に返り「すみません、そうでした」と言い、また椅子に座った。


「来週からアドベントに入ります。本当は勉強会は週に1回ペースがいいと思うんですが、時間が足りないので週に2回行う日も設けたいと思います」


「アドベントって何ですか?」


「アドベントは待降節です。イエス様がお生まれになった週の4週間前から、その日が来るのを待つ時期になります。教会では蝋燭に1本ずつ火をつけてクリスマスまでのカウントダウンをします」


 4週間前となると、確かに週1じゃ間に合わない。


「勉強会は1時間くらいを予定してるので基本は日曜の礼拝後でいいですか? そして平日の夜にも来られそうな日を教えてください。土曜日は……ちょっと僕が説教の準備で手一杯なので」


 私はうなずいた。


「分かりました。それでは1回目の勉強会は来週からにしますか?」


「来週は礼拝後役員会があるので、そのときに高辻さんを教会員に迎えるかの承認を得ます。役員会は30分ぐらいなので、その後でも良ければ来週から始めましょう」


「お願いします」


 すると牧師は表情を緩ませて「じゃあちょっと二本目取ってきます」と言って、冷蔵庫の方へ行った。


 その様子を見て二宮さんが「先生、本当に好きなんですね」と呟いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ