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第36話 泣いてもいい日曜日

 翌日の日曜日、いつも通り教会に行く。


 昨夜はあんまり眠れなかったけど、変に気が高ぶっているのか礼拝中も全然眠たくならなかった。


 礼拝を終え帰り支度をしていると、二宮さんが話しかけてきた。


「高辻さん、おはようございます。ストール、使ってくださってるんですね。嬉しいです」


「……二宮さん、おはようございます。このストール、軽いのに暖かいので気に入ってます。他の柄もほしいくらい。水洗いとかしても大丈夫ですか?」


 二宮さんはいつもの快活な笑顔を見せた。


「ありがとうございます。私はいつもネットに入れて洗濯機で回してますよ。結構丈夫に作ってるんで大丈夫……高辻さん、どうされたんですか?」


「え?」


 二宮さんに心配そうな顔をされて、そのとき私は自分が泣いていることに気づいた。


 涙が次から次から溢れて止まらない。


 慌ててタオルハンカチを出し顔を覆う。


「ご、ごめんなさい……何で……」


 二宮さんが何も言わず背中をさすってくれていると、そこへ榊原牧師がやってきた。


「高辻さん、おはようございます。よかったらお話お聞きしましょうか? 牧師館なら夕香もおりますし。二宮さんもよかったら」


 そう牧師に誘われ、二宮さんはうなずいた。


 私も泣きながらうなずく。


 私は昨日の話を誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。


 二宮さんに支えられ、何とか立ち上がり牧師館へ向かった。




 牧師館のダイニングテーブルに案内される。


 夕香さんも今は祈ちゃんが寝ているとのことで、一緒に話を聞いてくれることになった。


 牧師館のリビングの一角に小さなベビーベッドが置かれてあり、そこに祈ちゃんは寝かされていた。


 その上にパッチワークのブランケットがかけられている。


 あとから聞いたらやっぱりそれは二宮さんの作品で、出産祝いに送ったらしい。


 祈ちゃんもああやって、神さまと教会のみんなに守られている。


 それを見ながら、私は榊原牧師夫妻と二宮さんに昨日の出来事を話した。


 話し終わったあと三人はため息をつき、二宮さんが戸惑ったように口を開いた。


「病気のお友達の話、覚えています。まさかそんなことになっていたなんて……」


「はい。あの時は皆さんで回復を願って祈ってくださったのに、それが踏みにじられた気がして、本当に悔しくて腹が立って……」


 思い出しても、また涙が溢れそうなくらい怒りが込み上げてくる。


 すると榊原牧師がゆっくりと、でもはっきりと言った。


「高辻さん、まずはこれだけ言わせてください。怒ってくださって、ありがとうございます。キリスト教を、教会を守ってくださったこと、本当に感謝しています」


 夕香さんも口を開いた。


「高辻さん、お辛かったのに話してくださってありがとうございます。仲が良かったお友達が変わってしまって、悲しかったですよね」


 それを言われて、気づいた、


 私はキリスト教を、教会の祈りを否定されたことだけじゃなく、あの明るくてさっぱりした性格だった彩希が変わってしまったことも悲しいんだ。


「……天観心教、聞いたことがあります」


 牧師が語り出す。


「規模はそこまで大きくないですが、最近急激に信者数を増やしている新興宗教です。特に若い人を取り込んでいるようですね」


「ご存じだったんですか……」


 私が言うと牧師はうなずいた。


「教義も疑問ですが、何より問題なのは高額のお布施を要求することです。それで裁判沙汰にもなったらしいですが、勝つのは基本難しいですね。お布施はあくまで本人の意思で納めたと言う形を取らせます。脅迫したわけでも騙したわけでもない。カルトの典型的な手口です」


「カルト……」


 榊原牧師にカルトとはっきり言われ、言葉につまる。


 頭によぎっていた言葉だけれど。


「一見は感謝だの自分に向き合うだの綺麗な言葉を並べてますが、徐々にその気持ちをお布施で表せと言われるそうです。もちろん教会もそうですが献金なくしては運営はできないので、ある程度のお布施は必要です。でもカルトはその額を宗教側が決める。そして収支も不透明。健全な宗教団体とは言えませんね」


「……友達もお布施を納めてるんでしょうか」


「分かりません。でもそこまでのめり込んでるなら否定はできません。教えを実行するにはなにか物品を買えと強要されてる可能性もありますし」


「……」


 もし彩希が高額のお布施を既につぎ込んでるんだとしたら。


 そう考えると彩希に対して怒りよりも心配な気持ちが強くなってきた。


「……私も病気をした経験があるから分かるんですけど」


 私の隣で話を聞いていた二宮さんも語り出す。


「病気の時って本当に孤独で辛いんです。高辻さんのお友達の病気とは全然違いますが、私が精神疾患になったときは常に死を意識しました。私は毎日お祈りをして自分を支えましたけど、もしあの時にすがるものが何もなかったらって考えると、お友達が新興宗教にはまってしまった気持ちも分かる気がします」


 それを聞いて夕香さんも苦しげに言った。


「宗教は本来、人の弱さに寄り添うものです。でもそこへつけ込むのは本当に悔しいですね」


「……彩希は、弱ってたところにすがってしまっただけなんですかね……」


 牧師はうなずく。


「そうですね。残念ですがターゲットにされた可能性はあります」


「……」


 なんだか背筋が寒くなってきた。


 私は去年のクリスマス、仕事に追われ直人にフラれ、人生どん底の時にたまたまたどり着いたのがこの行友教会だった。


 もしあのとき、別の甘い言葉で誘ってくるものがあったとしたら……。


 私はどうなっていたんだろう。


「高辻さん、カルトの三大特徴ってなにか分かりますか?」


 え? と思い顔を上げる。


 牧師は隣の夕香さんに


「こんなこと牧師が言ってたって公になったら問題だからブログに書かないでね」


 と言うと、夕香さんは分かってますと言わんばかりにうなずいた。


 そしてこちらを見て言う。


「カルトの三大特徴は、


これをすれば必ず願いは叶うと断言する

逆にしなければ不幸になると脅す

お布施の金額を宗教側が決める


この三点です」



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