第34話 静かな違和感
「茉那! 久しぶり。元気だった?」
待ち合わせたカフェに行くと、彩希は既に店に着いていた。
彩希と会うのは一年以上ぶりだ。
久しぶりに会った彩希はちょっと痩せたように見えるけど顔色はよく、前と変わらない笑顔を見せてくれたのでほっとする。
彩希はちょうど去年の今ごろ、ステージ3の乳癌だと診断され、今年の始めの恒例の初詣には来られなかった。
その後抗がん剤をいろいろ試し、合うのが見つかって腫瘍が縮小し温存手術も決まったと報告を受けたのが5月。
それ以来、彩希からの連絡はなかった。
グループLINEはたまにみんなでやりとりはしてたけど彩希は発言せず、ある時ようやく既読がつく、そんな日々が続いていた。
最後の連絡から半年以上たって彩希から連絡をもらって、そして思ったより元気そうな様子を見て嬉しかったんだけど、少し違和感は感じていた。
今まで彩希含め大学時代の友達グループで仲良くしていたけど、私は彩希と個人的に連絡を取ったことはなかったのだ。
彩希と会う時はいつもみんなと一緒だったから。
だから今回、個人LINEに連絡が来たことが不思議だった。
「彩希、久しぶり。よかった。元気そうだね」
この日は土曜の午後、私は地元に帰っていた。
彩希から会いたいとは言われたけど、まだお医者さんから遠出を禁止されているらしく、私がこちらまで帰ってきていた。
「茉那。忙しいのにごめんね。わざわざ帰ってきてもらって」
「全然いいよ。連絡もらえて嬉しかったし。……本当に私だけでよかったの? 他のみんなも声かけなくて」
「うん、みんなそれぞれに声はかけていってるよ。でも大人数で会うと疲れちゃうんだ」
「そうなんだ……」
それはそうなのかもと納得する。
彩希は既にハーブティを頼んでいたので、私もアイスコーヒーを頼んだ。
今日はこの時期にしては気温が高い日だった。
「今は体調はどうなの?」
すると彩希は軽く微笑んだ。
「落ち着いてるよ。通院は続けてるけど、外出したり買い物したりはできるようになってきた。結構面倒なのは食事かも。カフェイン禁止とか冷たいもの禁止とか生物禁止とか制限多いから」
「それは大変だね……」
だから今日もハーブティーを飲んでるんだ。
「でも体調良さそうでよかった。5月から連絡止まってたから心配してたんだよ。聞いても負担になるかと思って聞けなかったから」
「そうだよね。ごめんね」
彩希はあっさりと言う。
……なんだろう。言葉にできないんだけどやっぱり違和感があるような……。
まあ、こうやって彩希から連絡してくれたんだからいいか。
「手術が決まったって話までは聞いたんだけど、それはうまく行ったんだよね?」
「うん、そう。抗がん剤がすごく効いて温存手術ができたから。温存だと回復も早いしね。抗がん剤も最初はなかなか合うのが見つからなかったけど、いいのが見つかったから本当に感謝してるの」
「そっか。よかったね」
「うん、やっぱり全てのものに感謝する心って大事だよね」
「……うん、そうだね」
……やっぱり彩希はちょっと性格が変わった気がする。
前はもっとあっけらかんとしていたと言うか、怖いもの知らずなところもあったんだけど、やっぱり大病をすると価値観が大きく変わるのかもしれない。
そう思いながら私もアイスコーヒーを口にする。
「茉那は? 仕事や彼氏とはどうなの?」
思わず口に含んでたコーヒーで噎せそうになる。
そうか、彩希は直人と別れたこと知らないんだっけ。
「……仕事はまあまあかな。ちょっと余裕が出てきた気もする。……直人とは別れたよ。去年のクリスマスに」
すると彩希は目を見開いた。
「そうなの? ごめん、つらいこと聞いて」
「いいよ。もうなんとも思ってないから。さすがにもうすぐ一年たつしね」
すると彩希の目に少し光が宿ったような気がした。
「茉那、そのつらい別れもきっと人生に必要な学びなんだよ。その別れにも感謝しないと。世の中ってままならないけど、ちゃんと見守ってくださってる存在はいるんだから」
「……? うん、そうだね……」
徐々に違和感が積み重なっていく。
気温は高いのに背筋がスッと冷える気がした。
そもそも今日、彩希はなんで私だけを呼び出したんだろう。
「茉那、実は今日聞いてもらいたい話があって」
「話?」
彩希はうなずいた。
「私が病気でつらかったときにある人から教わった学びがあるの。自分の至らないところや感謝の心が足りてなかったことを知ることで私はそれで救われたし、その教義が本当に素晴らしいから茉那にも知ってほしいんだ」
「……」
「だから」
彩希は以前と同じ笑顔で続ける。
「今度、セミナーがあるの。一緒に行かない?」




