表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/51

第31話 形になるもの

 杏奈ちゃんがブレスレットを買っていったあと、私も売場を見て回った。


 服を出してる人も多かったけど、正直年代が合わないのでそこは見るだけになった。


 そこでふと目に止まったのは、すごく鮮やかな布製品が並べられていたスペースだった。


 近寄ってみるとクッションカバー、ランチョンマット、ブックカバー、そしてストールもある。


 思わず手に取ってみると……、これはパッチワーク?


 ものによってはカラフルな色あわせだったり、落ち着いたトーンで統一されていたけど、それは布を1枚1枚丁寧に縫い合わせたパッチワークだった。


 きちんと裏地も付いてる。


 その作業の細かさに見入っていると「気になります?」と声をかけられた。


 話しかけてきたのは二宮さんだった。


「はい、パッチワークって久しぶりに見ました。……もしかしてこれ、二宮さんの作品ですか?」


 すると二宮さんは、笑顔全開で答えた。


「はい! 私、手芸が好きなんで。こうやって縫い物してると無心になるんですよね」


「そうなんですか……」


 二宮さんは仕事も忙しいだろうに、こうやって趣味の時間もきっちり取ってるのはすごいなと感心してしまう。


 そしてそれを抜きにしても、二宮さんのパッチワークはとても引き付けられるものがあった。


 青とオレンジの補色関係にある色を選んでるのにまとまりがあったり、暖色系で統一して馴染みやすいものもあったり。


 ……これは欲しいかもしれない。


 色々検討した挙げ句、ストライプの柄がかわいいクッションカバーと、グリーンと赤の配色が鮮やかなストールを買うことにした。


 クッションカバーは500円、ストールは1000円だったけど多分材料費の方が高く付いてるんじゃないかな。


 私が買いますと言うと、二宮さんは嬉しそうに「ありがとうございます」と言って笑った。




 二宮さんのパッチワークを手に持って他も見て回っていると、椅子に座った夕香さんがいた。


 思わず声をかける。


「夕香さん。大丈夫なんですか?」


 夕香さんはもう臨月に入っていた。


 先月でもはち切れそうと思っていたお腹だけど、さらにそこから大きくなった気がする。


「ありがとうございます。助産師さんにも動けるなら動いた方がいいって言われてるので。でもさすがにしんどいので、こうやって休んでますけど。この子もう3000グラム越えてるみたいなんで、標準より大きいらしいです」


 夕香さんは、明るく笑ってる。


 よく分かんないけど、大きい赤ちゃんって産むのは大変なんじゃないだろうか。


 そう思ってると、私がパッチワークを持ってるのに気づいた夕香さんが話を続けてきた。


「それ、二宮さんのパッチワークですよね。私も好きでいくつか買いました。うちのランチョンマットは二宮さん作なんですよ」


「そうなんですね。こういう創作ができる人って尊敬します。夕香さんのブログも面白いし」


「私は先生のそのままを書いてるだけなんで。でも確かに何かを形にするって楽しいなって書いてて思います」


「……そうですよね。描くって楽しいですよね……」


 思わず過去の思い出に浸りそうになったので、私は夕香さんに挨拶しクッションカバーとストールを会計した。


 クッションカバーは部屋のアクセントになりそうだし、ストールはあのシンプルなコートに合わせてマフラーみたいに使ったら映えそう。


 思わぬ収穫に、自分の顔が緩んでいくのが分かった。




─────────────────────




 バザーは大盛況に終わり、ほとんどのものが売れていっていた。


 一つ一つの値段は抑え目だけど、塵も積もればなんとやらで、この日の売り上げは15万円近くになったらしい。


 バザーが教会の貴重な収入源だというのも分かる。


 部屋の断捨離もできるし、みんな欲しいものを安く買えるし、そしてそれが教会の収入にもなる。


 三者Win-Winのシステムなんだなと改めて思った。


 バザーの後はみんなでテーブルを片付け長椅子を直し、台所では手分けして食器を洗ったりして、全部が終わった頃にはかなり日が傾いていた。


 日に日に、日が落ちるのが早くなっているのが分かる。


 今日はインスタ用にいっぱい写真が撮れたけど最後にと思い、教会の玄関から見える秋が深まった空と町並みを写真に納めた。



─────────────────────



 そして毎日のように更新されていた牧師の妻ブログだけど、10月の後半に入った頃、更新がやんだ。


 ほぼ毎日更新されていたブログだから、2日も更新されてないと気になってしまう。


 これはもしかして……と思っていると、3日目にブログが更新されていた。



「改めてはじめまして。


行友教会の牧師、榊原です。


昨日の夜8時頃、妻が無事に元気な男の子を出産しました。


標準より大きな子だったので緊急帝王切開になりましたが、母子ともに健康です。


神さまのみ恵みに感謝いたします。


取り急ぎご報告まで」



 そして添えられた写真は、牧師のものと見られる男性の指を握る小さな赤ちゃんの手だった。


 夕香さん、赤ちゃんが産まれたんだ!


 小さいながらもぎゅっと牧師の指を握る赤ちゃんの手を見てるだけで、ちょっと泣きそうになる。


 そのブログを読んだ私はその日の夜、いつもの黙祷で神さまに感謝した。


天の父なる神さま

本日もお守りいただき感謝いたします。

そして榊原牧師夫妻に元気な赤ちゃんが産まれたこと、心より感謝申し上げます。

どうかあの小さい命にあなたの愛といたわりが共にありますように。

このお祈り、主イエス・キリストのみ名によって祈ります。


アーメン


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ