第28話 9人目の礼拝参加者
翌日の日曜日、ついにオンライン礼拝の本番当日を迎えた。
いつもより早く、礼拝開始の30分前には教会に着く。
中継用のスマホは充電は十分にしておいたけど、中古スマホでバッテリーの持ちが不安なので、中継も延長コードで充電しながら行うことにした。
スマホの電源を入れ中継用アプリを起動し、あとは中継開始ボタンを押すだけ。
結局ほぼぶっつけ本番になってしまったけど、もうなるようになれだ。
その状態で礼拝開始時間を待っていると、夕香さんや二宮さん、小堀さんやその他何人かが興味津々に寄ってきた。
「へえ、本当にスマホ1台で中継できるんですね」
「やっぱりパイプオルガンが画面に入ると迫力が出ますね」
「司会の三森さん、緊張してますね。顔がこわばってる」
みんなでわいわい言いながらスマホの画面を覗き込んでる。
二宮さんが興味深げに聞いてきた。
「中継するときはややこしい手順はあるんですか?」
「いえ、アプリを立ち上げて配信ボタンを押すだけです。終わったら停止ボタンを押すだけ。それ以外、特にやることはないですよ」
すると、ある男性が言った。
「それくらいなら僕にもできそうですか? オンライン礼拝の担当も当番制にした方がいいと思うので」
「そうしてくださると助かります。誰でも簡単に操作できるように設定してるので」
そう言うと「へえ……」「すごい」「さすがですね……」とみんな口々に感心していた。
正直初期設定も大したことはしてないんだけど、やっぱり慣れない人には抵抗があるのかもしれない。
そうしていると礼拝5分前になり、皆さん着席していつもの礼拝を待つ雰囲気になっていった。
中継開始ボタンを押すと無事に配信が開始されたみたいだ。
自分のスマホでもそれを確認する。
中継画面には視聴者数も表示されていて、その数は8人だった。
誰が見てくれてるのかは分からないけど、それだけの人が見てくれてるんだと思うと嬉しくなる。
あとは礼拝が始まるのを待つだけ……、と思っていると、二宮さんが教会の電話の子機を持って私のところにやってきた。
「高辻さん、加島さんから電話が掛かってます。見られないって」
え? と思い電話を代わってもらう。
「もしもし、お電話代わりました。高辻です」
「もしもし、すみません。私、加島久恵の娘なんですが」
加島さんはたしか行友教会の最高齢教会員だ。
年齢は90歳を越えてると聞いたことがある。
もうほとんど礼拝には来ていなくて、私は会ったことはなかった。
「母がオンライン礼拝を見られないって言っていて。どうしたらいいかと思ってお電話したんです」
「分かりました。加島さんはスマートホンですか?」
「はい、らくらくスマホなんですが、送られてきたメールが見当たらないと言っていて。多分間違って消してしまったんだと思います」
その電話を聞きながら、教会専用のスマホを操作する。
これは公式グループLINEやメール連絡に使っているだけの、シンプルなものだ。
「分かりました。……いま、加島さんのメールアドレスにオンライン礼拝のリンクを貼ったメールを送りました。確認していただけますか?」
「はい、……あ、メール来ました。これをクリックしたらいいですか?」
「お願いします」
「あ! 見れました」
そして加島さんの娘さんは電話口から口を離し、加島さんに話しかけてるのが聞こえた。
「おばあちゃん、礼拝見れるよ!」
そして、また電話口に出る。
「ありがとうございます。これで今日の礼拝に母も参加できそうです」
私も胸を撫で下ろす。
「よかったです」
「あの……」
すると娘さんは少し口調を抑えて言ってきた。
「あの、今回のオンライン礼拝、始めてくださってありがとうございました。母はもう一年以上礼拝に出席できていなくて、寂しがってたんです。でもこれで礼拝に出席して神さまのお言葉を聞けるって、すごく母が楽しみにしていて」
「……」
「本当にありがとうございます」
「……いえ、また何かありましたらお電話ください。こちらこそありがとうございます」
そう言って電話は切れた。
オンライン礼拝参加者が9人になっていることを確認する。
無事に加島さんも視聴できてるみたい。
そして改めて思った。
ITってこうやって人の役に立つんだなと。
私が思い付いたことがこうやって、礼拝を必要としている人のところに届けることを可能にしている。
ITもシステムも今まで仕事の延長線上だったけど、リアルに人の役に立てたと言うこの経験は私にとってとても大きなものになった。
オンライン礼拝を始めてよかった。
心からそう思った。
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その後も滞りなく礼拝は進み、中継も問題なく行えていた。
……と思ってたんだけど。
司会の三森さんが聖書の朗読をしていると、後ろの礼拝堂のドアがゆっくりと開く気配がした。
「すみません……」
え? と思いそちらを見ると、若い男性が顔を覗かせていた。
その服装は、……明らかに宅配便の配達員だった。
「あの……お荷物のお届けに上がったんですけど……」
その若い男性も戸惑っている。
思わず夕香さんの方を見ると、夕香さんは明らかに「しまった」と言う顔をしていた。
取り敢えず手早くサインをして荷物を受け取ると、配達員さんは帰っていった。
見ると荷物の配達先は夕香さん、住所はこの行友教会のものだった。
多分牧師館と教会の住所が同じだから、配達員さんはこっちに持ってきたのかもしれない。
今まで礼拝に何度も出席してきたけど、礼拝中に宅配便が来たのは初めてだ。
今のやり取り、マイクに入ったかな?と気になったけど、取り敢えず三森さんは聖書朗読は続けてるし、出席者たちも特に反応は見せなかった。
ちょっと冷や汗をかいたけど、それ以外は大きなトラブルはなく、初めてのオンライン礼拝は無事に終わった。




