第27話 行友教会改革、始動
「夕香さん、ブログ始められません?」
私の提案に、夕香さんは目を丸くしていた。
「ブログ……ですか?」
私はうなずいた。
「はい。妻から見た牧師のブログって面白いんじゃないかと思って。やっぱりキリスト教って日本じゃマイナーだし、さらに牧師の仕事や私生活ってほとんど知られてないと思うんです。そこを牧師の妻が書いたブログという形で夕香さんが発信したら、興味を持つ人もいるんじゃないかって」
「……」
「もちろんメインの発信内容は牧師の仕事でそこを主軸として。簡単な説教の内容や勉強会、祈祷会のことを書いて、でもその合間に例えば牧師の今日の夕飯は大好きなハンバーグだとか、気分転換に映画に行くのが趣味だとか、そういう牧師の人となりの側面を書けば親しみを持ってもらえる気がします」
そこまで一気にしゃべったけど夕香さんが目を見開いたまま固まってるので、まずいことを言ったかなと心配になった。
「……すみません。つい思いついたことを言っちゃって。ご迷惑だったら……」
すると夕香さんは慌てて首を振った。
「いえ、そうじゃないです。ただびっくりして……。そういうの思い付かなかったので」
ちょっと落ち着こうと、私も話すペースを落とした。
「お子さんが生まれたら時間が取れなくなるとも思うので、本当にできればでいいんでって感じなんですけど。でも新米パパとして奮闘する牧師って言うのも、言い方悪いですけどネタとして面白い気がして」
もちろんブログの書き方は私が……と言おうとしたとき、夕香さんがボソッと言った。
「……面白そうですね。それ」
え? と思ってると、夕香さんの目の力が強くなった気がした。
「そういう発信の仕方もあるんだって思いました。……実は、高辻さんにだけ言いますけど、私は昔、趣味で小説を書いてたことがあるんです」
思ってもみなかった夕香さんの言葉に驚く。
「そうなんですか?」
「はい。短編小説を書いて、小説サイトにアップしたりしていました。ネットには疎いですけど、ああいうところってメルアドがあれば簡単に登録して始められるじゃないですか。私もそれくらいならできますし……何より私、文章書くの好きなんで。小説もすっかり書かなくなってましたけど、ブログって形で発信するの、すごくアリな気がします」
夕香さんの表情がどんどん明るくなっていく。
「なるほど……、いわゆる牧師観察日記ですね。愚痴とか書いても楽しそう」
思いのほか夕香さんがノリノリになってきたので、私も嬉しくなってきた。
「はい、あとは説教や宗教関連のことだけじゃなく、牧師が教会員とどう関わってるかを書くのも目を引くと思います。池畑さんの件はちょっとあれですけど……、例えば塩見さんみたいに体調の悪い教会員のところにお見舞いに行ってお祈りを捧げてるとかも書くと、牧師ってそこまで教会員に向き合ってるんだって知ってもらえると思いますし。
もちろん全世界発信になっちゃうんでプライバシーとか内容に注意は必要ですけど、夕香さんならその辺りはうまくやられる気がします」
「そうですね。牧師の見えざる仕事を発信するってすごく有意義な気がします」
「絶対興味を持つ人は多いと思うんですよね。行友教会には来られない距離の人もいると思いますけど、……キリスト教に触れてくれる人が少しでも増えたらいいなと思って」
そんな話で盛り上がってると、榊原牧師がリビングに姿を現した。
「楽しそうですね。何の話?」
すると夕香さんが嬉しそうに答えた。
「高辻さんが私にブログを始めたらどうかって提案してくれたの。題して牧師観察日記」
すると牧師は目を丸くした。
「え? 俺、観察されるの?」
俺、と素が出た榊原牧師が面白い。
「礼拝の一般公開もそうだけど、やっぱりこっちから積極的に発信していかないといけないって思ったの。ただじっと待ってても教会に来てくれる人は増えないし。私もやれることはやりたいわ」
牧師はいまいち話が飲み込めてなさそうだったけど、最終的には「いいんじゃない?」と受け入れていた。
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あと、これも前から気になってたんだけど、行友教会はSNS発信も全くやっていなかった。
前に予算会議で話題に上がっていたように、ホームページもあまり人目を引くようなものじゃない。
ホームページはWebデザイナーに頼めば見映えのいいのは作ってくれるけど、こっちはそこそこお金がかかりそうなので、取り敢えず無料で始められるSNSはやったらいいんじゃないかと思った。
もうすでにたくさんの教会がやってるので後発にはなるんだけど、やらないよりは絶対いい。
そこでもしよければ、私が行友教会のInstagramアカウントを作って運用したいと申し出た。
インスタなら写真を貼って短い文を添えるだけだし、そこに教会のホームページのリンクを貼れば宣伝にもなる。
更新も週に一度、写真も例えば茶話会のメニューがカレーだとか、牧師館の庭の柿の木が実ったとかそういう写真なら私も負担にならない。
分かりやすく人の興味を引きそうな投稿、ここは営業のプレゼン資料づくりに慣れてる私にとっては得意分野だ。
今から思えばイースターエッグやバージンロードが敷かれた礼拝堂は、すごく映える写真になっていたはず。
もっと早く気づけばよかった。
それも伝えると牧師夫妻は、嬉しそうにうなずいてくれた。




