表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/50

第26話 牧師の娘、牧師の妻

 夕香さんに招かれ、牧師館にお邪魔させてもらう。


 リビングに通されたとたん、ひんやりした空気にほっとした。


 礼拝堂の掃除の時ももちろんエアコンはついていたけど相変わらず効きは悪いし、いつも座ってるだけの礼拝だけとは違い、掃除で体を動かしてかなり汗ばんでいたから。


 夕香さんにコップに注いだ麦茶を出してもらうと、思わずそれを半分以上飲んでしまった。


 キンキンに冷えた麦茶が美味しい。


 それをみて夕香さんはコップに麦茶を継ぎ足してくれた。


「高辻さん、今日は本当にありがとうございます。掃除も暑かったでしょう」


「いえ、皆さんと協力できて楽しかったです。皆さんでこうやって教会を運営してるんだなって思えたし、仲間に入れてもらえた気もするし」


 すると夕香さんは軽く笑った。


「何言ってるんですか。高辻さんはもうすっかり教会の一員ですよ」


 そう言ってもらえると改めて嬉しくなる。


 二宮さんにもなくてはならない人って言ってもらえたけど、ここにいていいって人に言われるってこんなに心が温かくなるものなんだ。


「夕香さんは体調はどうなんですか? お腹もかなり大きいし大変そうに見えるんですけど」


 椅子に座った夕香さんのお腹はさらにぽこっと前にせり出していた。


「体調は落ち着いてるんですけど、この子結構胎動が激しいみたいでそれがきついときはあります。寝ててもそれで起こされるし」


「そうなんですか……」


「赤ちゃんにとっては夜も昼も関係ないですしね。寝てるときは静かなんですけど、起きたときは分かります」


 そう言って夕香さんはお腹を撫でる。


 私もちょっと触らせてもらったけど今は寝てるのか静かだった。


「たまに蹴ったりもするんですか?」


「しますよ。多分この辺りに足があるみたいで、たまにぽこっとやられます」


「へえ……」


 このお腹の中に別の命がいるって、やっぱり不思議だな……。


「今は体のバランスを取るのが難しいです。重みが体の前にあるので歩くのも注意がいるし、足元も見えづらくなってるし……」


「それは大変ですね。階段とか気を遣いそう」


「はい。寝室が2階にあるんですけど、先生は危ないから1階で寝たら?って言ってますね」


 何となく榊原牧師もおろおろしてそうなのが想像できる。


 でもこうやって二人で新しい家族が来るのを待ってるんだな。


「あ、そう言えば沙弥香が高辻さんたちにお礼を言ってたんですよ。みなさんのお陰で思い出に残る式ができたって」


「そうなんですか……。よかったです。私も素敵な式を間近で見られて、感動しました」


 沙弥香さんの結婚式は本当に素敵だった。


 5月の陽光の下で、キラキラ輝いていた沙弥香さんは今でも忘れられない。


 本当に素晴らしい人生の門出に立ち会わせてもらったと思う。



「……そう言えば前から聞きたかったんですけど、夕香さんたちは何をきっかけに結婚されたんですか?」


「紹介ですよ」


 夕香さんはあっさりと言う。


「うちの父親も牧師ですけど、牧師って結構横の繋がりが強いんですよ。それで父の神学校時代の知り合いから独身の牧師がいるって紹介されたんです」


「へえ……」


「なので試しに会ってみて……、そこからとんとん拍子に結婚が決まりました」


「そうだったんですね……」


 私が妙に納得して聞いていると、夕香さんは少し声のトーンを落として続けた。


「……でも実は、私は牧師とは絶対結婚しないって決めてたんです」


「え?」


 夕香さんの予想外の発言に驚く。


「そうなんですか?」


「はい、さっきも言いましたけど、うちの父親も牧師じゃないですか」


「はい……」


「牧師って日曜日は絶対礼拝を守らなきゃいけない。そして土曜日もその準備でほぼ潰れる。平日も聖書研究会や祈祷会もあるし、教団で勉強会や牧師の集まりもある。そしてその合間には教会員たちの相談にも乗りますし、ほぼ休みなしで教会の仕事に追われるんです。結局のところ牧師って自営業ですしね」


「……」


「そんな父を小さい頃から見てたので、私は絶対土日休みのサラリーマンと結婚するんだって決めてたんです。でもなぜか今ここでこうしてますけど」


「なるほど……」


 確かに教会は教会員たちの奉仕で成り立ってる部分もあるけど、結局中心で教会を運営してるのは牧師だ。


 何十人もの教会員をまとめる仕事って考えると、かなりハードなのが想像できる。


「だから牧師ってよっぽどキリスト教オタクじゃないと務まらないですよ。普段から常に『これは次の説教で使えるんじゃないか?』とか『新しい解釈はないか?』って頭の中はそればっかりなんです」


 苦笑しながら言ってるけど、キリスト教オタクって言葉は夕香さんじゃないと出てこない言葉かもしれない。


 でもそれだけ牧師と言う仕事を間近で見てきた夕香さんだからこそ言えるのかも。


 私も夕香さんから話を聞かなければ、牧師の大変さはここまで理解できなかった。


 毎週礼拝に出てるだけじゃ分からない牧師の、そして教会の実情が見えてくる。



「……あの、夕香さん、ちょっと提案があるんですけど」


 夕香さんはこちらを見た。


「はい、何ですか?」




「夕香さん、ブログ始められません?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ