第25話 講壇から見えた風景
その次の日曜の礼拝後、榊原牧師は出席者たちに「皆さんにお話があります」と切り出しリモート中継、いわゆるオンライン礼拝についてどう思うか聞いていた。
その場にいた人たちは概ね賛成だった。
感染症対策の時に一度出た話だったからと言うのもあり、どちらかと言うと実現を望んでた人が多かったらしい。
今日礼拝に参加できなかった人にもメールやLINEで確認を取ったところ、大きな反対はなくほとんどの人が賛成だったとのことだった。
ただ今回は牧師と話し合い、あくまで教会員限定のオンライン礼拝だと言う話までにすることになった
一般に公開するとなると、教会員の心理的ハードルが一気に上がることは想像できたからだ。
礼拝を撮影するのは私も初めてで、どんな感じになるか分からない。
ここは焦らず、じっくり進めていこうと思った。
あくまでリモート中継するだけなら、機材はスマホと三脚があれば十分だ。
動画配信ができるギリギリのスペックを持った中古のスマホならそんなに高くないはず。
あと教会にはWi-Fiがないからデータ専用SIMも必要になる。
格安SIMなら通信費も電気代が少し増えるみたいなものだし、機材の購入費を合わせても会計担当の人からこれくらいなら予備費で賄えると言われ、とりあえずほっとした。
そうして9月頭の礼拝からリモート中継を始めることになった。
ちょっと夏のピークは過ぎてしまったけど、でもまだまだ猛暑は収まらない。
始めるならなるべく早い方がいいだろう。
そう思った。
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その前日の土曜日、私は教会にいた。
スマホと三脚をセッティングするためと言うのもあるけど、実は教会は当番制で土曜日に掃除を行っているのでそれに参加するためだ。
土曜日の掃除は夕香さんも毎週参加していたんだけど、さすがにもうお腹が大きくなってきていて動くのがきつくなってきたと聞き、私も掃除当番に組み込んでもらうことになった。
みんなで協力して礼拝堂に掃除機をかけたり棚や椅子を吹いたり、玄関口を箒で掃いたりする。
みんなでワイワイ喋りながらやるのが楽しい。
その掃除の時に私は初めて講壇に立った。
そんなに高さがあるとは思ってなかったけど、講壇に立ち礼拝堂内を見渡すと、こんなに出席者の顔が見えるんだと驚く。
ここから毎週礼拝を行っている牧師からしたら、出席者が減っていく礼拝の様子は余計に切実に映ってるのかもしれない。
講壇の上には聖書が置かれていた。
それは私がいつも教会で借りている聖書よりはるかに大きく、ちょっとした小包みくらいの大きさがあった。
中を見てみると書かれていることは同じだけど、文字が大きい。
……そういえば、私はずっと教会の聖書と讃美歌を借りているけど、そろそろ自分のを買おうかな。
そんな風にぼんやりと思った。
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教会の掃除が終わったあと皆さんは帰っていき、私は1人残って三脚とスマホのセッティングをした。
真正面に設置すると通路の真ん中を塞ぐので少し横にずれ、一番後方の椅子の後ろからいい画角を探す。
試行錯誤の結果、講壇とパイプオルガンが入るように位置を決めた。
のちのち一般公開を視野に入れるなら、このパイプオルガンは絶対目を引くと思ったからだ。
ある程度設定が終わったところで榊原牧師夫妻に来てもらう。
夕香さんはもうお腹がはち切れそうになっていた。
それでもまだ臨月じゃないらしいから、人体って本当にすごい。
榊原牧師に講壇に立ってもらい、パイプオルガンの演奏者の位置に夕香さんに座ってもらうと、いい感じの画面になった。
榊原牧師は背が高いので、意外と画面映りもよかったのもいい誤算だった。
ただ……。
「先生、緊張されてます?」
画面越しに見る榊原牧師は表情が固いように見えた。
「は、はい。少し……」
そう答える牧師に、夕香さんは軽く吹き出している。
「人前で喋るのがお仕事なのに?」
「やっぱり撮られてると思うと違いますよ。身が引き締まる気がします……」
今日の牧師の格好もラフなTシャツなのでそのせいもあるかもだけど、いつもの堂々と講壇で説教してる牧師とは違い少し心許ない感じもした。
まあでも、礼拝が始まったら牧師モードに切り替わるんだろうけど。
その後マイクをオンにしてもらい、榊原牧師に聖書の朗読をしてもらう。
音声はバッチリ拾えてるようなのでよかった。
試しに夕香さんにパイプオルガンの音も出してもらったけど、そっちも音割れせず綺麗に再現できている。
それらを言うと牧師夫妻も安心したようだった。
今回のオンライン礼拝は事前に教会の公式グループLINE、メールしかない人はそちらへ個別にURLを送信していた。
礼拝開始時間にそれらをクリックしてもらえれば、礼拝を視聴することができる。
高齢者が多いのでなるべく皆さんの手間を省くことを考え、その形を取ることにした。
「高辻さん、ありがとうございます。すみませんが僕は失礼させていただきます。明日の説教の準備がまだ終わってないので。よかったら牧師館へ寄ってお茶でもしていってください。夕香も喜ぶと思うので」
そう言って榊原牧師は牧師館の方へ帰っていった。
それを見送った夕香さんは、私の方を見てニコッと笑った。
「是非お茶していってください。私も色々お話ししたいので」




