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第24話 思いが動き出すとき

「高辻さん、大丈夫?」


 営業の先輩に話しかけられて、はっと我に返る。


「昨日休んでたよね。体調悪い? 夏バテ?」


「い、いえ。大丈夫です。すみません」


 いけない、気を引き締めないとつい仕事が疎かになってしまう。


 昨日の塩見さんの告別式のあと、家で一人で泣いて気づいたらもう夜だった。


 汗でベタベタになっていたので何とかシャワーを浴びたけど、食事を取る気になれずなんとかカロリーメイトを水で流し込んだ。


 今朝も食欲がなかったので、栄養ドリンクでなんとか出勤はした。


 でも仕事がてんこ盛りなのに手につかない。


 今やらなきゃいけないのに、気持ちがどうしても落ちていく。


 直人と別れた時は仕事で気持ちを誤魔化せたのに、今回はダメだ。


 塩見さんがいなくなってしまったショックが、ジワジワと心にのし掛かってくる。


 もしかしたら先輩の言う通り、夏バテもしてきてるのかもしれない。


 自分を騙し騙し、なんとか仕事を少しずつこなしていった。




 ようやく週末になり、日曜日に教会に向かう。


 もうすっかり礼拝に出席するのは当たり前になっていた。


 同じ時間に起き身支度を整え、電車に乗って教会に行く。


 すっかり体に染み付いたルーティンだ。


 この日も最高気温は35度を越えるとのことで、エアコンの効きが悪いのもあり礼拝中も汗がにじむ。


 そのせいもあるのか礼拝出席者も少なくなっていた。


 礼拝堂ってこんなにがらんとしてたっけ。


 特に塩見さんがいなくなったと言うのも大きいのかもしれない。


 ここ2ヶ月は来てなかったんだけど、もう来ることはないんだと思うとそれだけで心にぽっかり穴が空いた気がする。


 池畑さんもあれっきり教会に姿を見せない。


 顔を会わせたら気まずいのでほっとしてる部分もあるんだけど、いないと少し気になってしまう。


 私の気持ちはどっちなんだろう。


 でもこれが高齢化の現実かもしれない。


 涼しくなれば出席者は増えるだろうけど、でも塩見さんみたいにいなくなってしまうのはいつかは起こることだ。


 それを考えると、教会の高齢化の深刻さが身に染みて感じられるようになった。




─────────────────────




「高辻さんたちは明日からお盆休み?」


 以前は私の机に来るときはチョコを置いてくれてた江間さんだけど、最近はなくなっていた。


 エアコンが効いてるオフィスとはいえ、チョコレートが暑さで溶けやすくなっていたからだ。


「はい、江間さんたちもですよね? 会社カレンダーは営業もシステム部も同じですし」


「俺は明日出勤。どうしても終わらせなきゃいけない仕事があるから」


「そうなんですか? 顧客ファーストしない主義でしたよね?」


「顧客じゃないよ。その方が後々楽だから自分のため」


「そうなんですね。でも江間さん一人のためにオフィスのエアコンいれるの、もったいない気がしますが」


「いや、熱中症になるからそこは許してよ」


 休日出勤するほど忙しいなら早く席に戻ればいいのにと思っていると、江間さんがボソッと呟いた。


「家でリモートで仕事できたらいいんだけどね。セキュリティの兼ね合いでうちは不可だからなあ」


「そうですね…………あ!」


 私が突然叫んだので、江間さんが驚いたようにこっちを見た。


「何? 突然」


 周りの営業の人たちもこっちを見てくる。


「……すみません。何でもないです」


「気になるんだけど」


「何でもないですってば。早く席に戻ったらどうですか?」


 そう言って江間さんを追いやりながら、私は頭に浮かんだ考えを何度も反芻していた。





────────────────────




「礼拝をリモート中継?」


 その次の日曜の礼拝後、私は牧師館にいた。


「はい。調べてみたらやってる教会、結構あるんですけど」


 私が会社で思い付いたのは、礼拝をリモートで中継することだった。


 まだ教会に来はじめて間がない私でも、礼拝に出席しないとソワソワしてしまう。


 何十年も教会に来ている教会員の人たちは、礼拝に出席できないともっと居たたまれない気持ちになるんじゃないだろうか。


 せめてリモート、いわゆるオンライン礼拝で自宅でも一緒に礼拝を守れれば、少しは心が落ち着くんじゃないか。


 そう榊原牧師に提案してみたのだ。


「……リモートですか」


 しかし牧師は浮かない顔だ。


「何か問題でも?」


「いえ、実は例の感染症のときに考えたんですよ。でも僕も夕香もネット関係弱くて、教会員も詳しい人がいなくてナアナアになっちゃったんですよね」


「私がやります」


 私の言葉に榊原牧師は呆気に取られた。


「え?」


「私はIT関係の仕事をしています。エンジニアではないですけど、リモート中継のセッティングくらいならやれます。機材もスマホがあればできますし」


「……」


「気になるのは礼拝を中継するってことに皆さん抵抗ないかなと言うことです。一応教会員しか見れない設定にはしますけど、そこはどうでしょう?」


 榊原牧師はちょっと考えたあと、軽くうなずいた。


「次の礼拝のあとに皆さんに聞いてみます。教会員限定にしたら、抵抗のある人は少ないと思うんで」


 榊原牧師が前向きになってくれたのでほっとした。


「……ただ、実はまだ考えてることがあって」


「何ですか?」


「オンライン礼拝で撮影することに皆さん慣れたら、礼拝を一般公開できたらと思ってます」


「一般公開?」


 私はうなずいた。


「もちろん全部の礼拝は公開しません。でも教会って閉じられた世界に見えちゃうので、実際どんなことをしてるのか外の方にオープンにするのも大事なんじゃないかと思って。

先生、前におっしゃってたじゃないですか。教義や教会の雰囲気ってそれぞれで、行ってみないと分からないって。でも今の人って実際に足を運んで確かめること自体ハードルが高い人もいます。少しでもこの行友教会のことを知ってもらえる機会を作れたらって思うんです」


 そこまで一気にしゃべって、ふと過去の自分を思い出した。


「私も最初、勇気がなくて入口で迷ったので……」


 すると隣で黙って聞いていた夕香さんが口を開いた。


「私は賛成」


 その言葉に榊原牧師は夕香さんを見た。


「やっぱり教会に来てもらえる機会を増やすって大事だと思う。今までトモくんも私もネット疎いから避けてきたけど、そんなこと言ってられないのよ。高辻さんがそう言ってくれるならチャンスだと思う」


 榊原牧師は下の名前を智也ともやと言うので、夕香さんは私の前でもたまに牧師をトモくんと呼ぶようになっていた。


 それを聞いて榊原牧師も心が固まったようだ。


「とりあえずオンライン礼拝のことは皆さんにお聞きします。礼拝の一般公開は皆さんどう受け止められるか分からないですけど、教会員を増やすためと言えば理解してくれるかもしれません」



 こうして三人の考えが固まり、今後の動きが決まった。



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