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第21話 守られる場所へ

 次の日の月曜日の夜、仕事も定時に切り上げて私は行友教会の牧師館にいた。


 電話を受けた榊原牧師に牧師館に来るように言われたのだ。


 夕香さんにお茶を出してもらい、一息つく。


 夕香さんはお腹もかなり目立つようになってきていた。


 もう生まれてもおかしくないんじゃ?と思うけど、まだ予定日まで3ヶ月はあるらしい。


 妊婦さんって大変だな……。


 そう思いながら榊原夫婦に話を切り出す。


「すみません、突然。それもこんな夜に……」


「いえいえ、こうやって相談を受けるのも牧師の仕事ですから。詳しくお聞かせ願えますか?」


 そう榊原牧師に促され、私は事の顛末を話した。


 最後まで聞いた榊原牧師は深々とため息をつき、そんな牧師を夕香さんは心配そうに見つめていた。


「あー……、池畑さん、小堀さんに話を持っていったのか……」


 榊原牧師の意味深な言葉が気になる。


「どういう意味ですか?」


 榊原牧師は一息ついて喋り始めた。


「実は池畑さん、高辻さんを紹介してほしいって、最初は僕に言ってきたんですよ」


「そうなんですか?」


「はい。でも僕はお断りしたんです。高辻さんとは年齢も一回り離れてるし、息子さんとも僕はほとんどお会いしたことがないので、どんな人かも分からなかったですし」


「そうだったんですね……」


「でも池畑さん、諦めきれなかったんでしょうね。だから世話好きの小堀さんに話を持っていったわけか……」


 はーっとまた深々とため息をつく。


「す、すみません。何だか知らない間に色々あったみたいで……」


 思わず謝ると、牧師は首を振った。


「高辻さんが謝ることじゃないです。教会も結局は人の集まりなので、色々あるんですよ……」


 夕香さんも言いにくそうに切り出した。


「高辻さんが礼拝に来られるようになって、教会の雰囲気も変わりましたしすごく嬉しかったんです。でも若い女性って正直よくも悪くも注目を集めてしまうので、気を付けないとねって話してたんです。それがこんなことになって……、こちらこそごめんなさい」


 夕香さんに謝られ、こちらも恐縮する。


 この話は誰も悪くない。


 何なら善意しかない。


 でもこれが狭いコミュニティのリアルなのかもしれない。


「あの、昨日あれから思ったんですけど……」


 ひとつ思ってたことを聞いてみる。


「独身女性なら二宮さんがいらっしゃるじゃないですか。年齢も近そうだし、そちらはどうなのかなと思って」


「その話なんですけどね……」


 牧師が眉根を寄せながら答える。


「僕もそう思って、二宮さんの方が年齢的にぴったりじゃないですかって池畑さんに言ったんですよ。そうしたら……」


「そうしたら?」


「『女性は40過ぎたら子供産めないんで』って言われて」


「……え」


 言葉が出ない。


「それもあって、池畑さんは高辻さんに近づけちゃいけないなって思ったんです。でもまさか小堀さんに持ちかけるとは思いませんでした」


 注意が行き届かずすみません、と榊原牧師は頭を下げる。


「この件は僕から池畑さんにお話しするんで。高辻さんは気になさらないでください。教会にもまた来てくださいね」


 榊原牧師の言葉に、夕香さんもこちらを見て微笑みながらうなずいた。




─────────────────────



 翌週、私は礼拝開始ギリギリの時間に教会に行った。


 中を見ると池畑さんは右の前の方に座っていたので、私はなるべく離れた左の後方に座った。


 今日の礼拝後、榊原牧師は池畑さんに話をすると言ってたけどどうなるんだろう。



 礼拝が終わり、牧師は池畑さんに近づき何か声をかけていた。


 池畑さんはそれを聞いてうなずき、そのまま椅子に座っている。


 牧師は一旦入り口の方へ行き、帰っていく教会員たちを見送ったあと、池畑さんを連れて隣の集会室へ入っていった。


 ドアも閉められたので中の様子は分からない。


 不安げに見守っていると、隣に誰かが座る気配があった。


 夕香さんだった。


 軽く微笑んだあと、心配そうに集会室の方を見ている。



 すると────



「何で牧師にそんなことを言われなきゃならんのだ!!」


 池畑さんの怒鳴り声が礼拝堂に響き渡った。


 それを聞いて私も夕香さんもビクッと身を震わせた。


 牧師の声は聞こえない。


「あんたには関係ないだろう! 余計な口出しをしないでくれ!!」


 言って池畑さんは顔を赤らめながら、集会室の引き戸を乱暴に開けた。


 そこで私と目が合う。


 池畑さんは私の方を睨み付けたあと、足音も荒々しく教会から出ていった。


 その後集会室から、ゲッソリと疲れた様子で榊原牧師が出てきた。


「先生、すみませんでした。ありがとうございます」


 頭を下げてお礼を言う。


 牧師は軽く手を振った。


「前も言った通りこれも牧師の仕事ですから。池畑さん、一度僕に断られたのに諦めてなかったことを知られて、余計に腹が立ったみたいですね」


 疲れきった顔に笑みを浮かべてくれる。


 改めて、牧師って本当に大変な仕事なんだなと思った。


 今回の件も本当に申し訳なかったけど、こうやって守ってくれる人がいることに安心感を覚える。


 そしてその後、池畑さんは教会に来なくなった。


 ちょっと罪悪感はあるけど、顔を会わせなくなってほっとしてる自分もいた。




 そんなバタつきが落ち着いた8月初旬、訃報が入った。


 塩見さんが亡くなったとの事だった。



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