第18話 夢を打ち明ける午後
「高辻さんにご相談したいことがあって」
杏奈ちゃんが覚悟を決めたように口を開く。
私もそれに応えようと、姿勢を正した。
「……高辻さんは、会社員をされてるんですか?」
思わぬ方向からの質問にちょっと戸惑う。
「う、うん。IT企業で営業やってるよ」
「そうですか……。私が気になるのは何で絵をやめちゃったのかなと思って」
「絵?」
「高辻さん、私ぐらいの時は絵を描いてたって言われてたじゃないですか。それをやめて、何で関係ない仕事をしてるのかと思って」
杏奈ちゃんは一生懸命自分の言葉でしゃべってくれている。
「……もしかして杏奈ちゃんは、絵のお仕事をしたいの?」
しばらくの沈黙のあと、杏奈ちゃんはゆっくり頷いた。
「絵と言うより……、漫画家になりたいんです」
「漫画家?」
思わず大きな声が出てしまい、口を押さえる。
「……この間お母さんに言ったんです。でも絶対無理って言われて」
「そうなんだ……」
杏奈ちゃんはゆっくりと言葉を続ける。
「私も難しいとは分かってます。でも漫画を描いて、漫画のこと考えてるときはすごく楽しくて、何だか諦めるの嫌だなと思って……」
「……」
何だか杏奈ちゃんの気持ちも、そしてお母さんの気持ちも分かる。
私も絵を描いてたときはすごく楽しかった。
「なので高辻さんは、何でやめちゃったのか気になって。何か理由があるんですか?」
理由……。
何で描かなくなったのか……。
「その……、情けない答えになっちゃうんだけど、これを仕事にするって思ってなかったと言うか。実は当時の同級生にすごくうまい子がいて、ついその子と比べちゃって私なんかが描いてもなって思ったんだよね。そのあと大学受験で時間が取られて、そこから描かなくなった気がする」
「……そうですか」
みるみる杏奈ちゃんが落ち込んでいく。
気まずさを感じちょっと空気を変えようと思って、質問することにした。
「杏奈ちゃんはどんな漫画を描いてるの?」
「え?」
「恋愛ものとか学園ものとか?案外バトルものとか色々あると思うんだけど」
「……どっちかというと恋愛ものです」
「そうなんだ」
「はい……、その……男の子同士の恋愛とか」
「あ、BL?」
私があっけらかんと答えたので、杏奈ちゃんは目を見開いてこっちを見た。
「私もBL読んでたよ。男女ものより読んでたかも」
そう言うと杏奈ちゃんは少し前のめりになった。
「そうなんですか?BL読む人と話したの初めてです」
「そう?実際は結構いると思うよ」
「そうなんですね。まさか高辻さんとBLの話ができるなんて思いませんでした」
「あ、そう言えば今思い出したけど」
私の言葉に杏奈ちゃんの目に力がこもる。
「私がよく読んでた漫画家さん、会社員をしながら同人誌描いてて出版社に持ち込みしたんだって。そこで仕事もらえて安定してから会社やめて漫画1本になったってブログに書いてた」
杏奈ちゃんは目を見開いて固まっている。
「だからあまり無責任なことは言えないけど、まだまだ杏奈ちゃんは漫画家になることを諦める必要はないと思うよ。お母さんも仕事にするのは無理って言ったかもしれないけど、趣味で描くのは止めてないんでしょ?いろんな可能性を残しながら、タイミングはかって実力つけたらいいんじゃないかな」
「なるほど……」
考え込んでる杏奈ちゃんに、私はつい好奇心で言ってみた。
「ねえ、杏奈ちゃんが描いてる漫画、私読んでみたい」
「え?」
「今どきの中学生が描くBLってピュアなのかな?とか意外と深いのかな?とか気になる。読ませてくれない?」
「無理です」
速攻で断られる。
「え、見たいんだけど。1ページだけでもダメ?」
「……1ページだけなら」
「本当に?見たい!」
「……じゃあ、今度スマホにデータ落としてきます」
「ありがとう!楽しみにしてる」
そう言うと杏奈ちゃんは照れたように微笑んだ。
そこから二人でBLトークをしながら、チーズケーキを食べ進めた。




