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第17話 勇気を出した小さな声

 沙弥香さんの結婚式の翌週は、また教会で行事があった。


 ペンテコステだ。


 これに関しては知識ゼロで何それ状態だったんだけど、ペンテコステを日本語で言うと聖霊降臨祭だ。


 イエス様は十字架にかかって亡くなりその後復活したわけだけど、もう肉体はなくなってたので自分で布教活動はできなくなった。


 なのでイースターから50日後、イエス様の弟子たちに聖霊が降臨し、イエス様の教え、要は福音を広めるように言われた。


 その聖霊が何なのかよく分からないけど、その聖霊の力で弟子たちは複数の言語がしゃべれるようになり、宣教活動を始めたと言う。


 多言語がしゃべれるようになったと言うのがちょっと羨ましい。


 新約聖書にある福音書は、まさに弟子たちがイエス様の教えを説いて回った記録を残したものだった。


 マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの福音書が並んでるのはそう言うことか。


 ようやく腑に落ちる。


 クリスマス、イースター、そしてこのペンテコステがキリスト教の三大行事と言われていた。




 ペンテコステの時も礼拝はそれに伴っておめでたい雰囲気になり、そして例のごとく茶話会もあった。


 教会員の人たちと一緒に食事を食べる。


 この日のメニューはミートスパゲティだった。


 ミートソースはお肉がたっぷりで、優しい味がした。


「高辻さん、先週は夕香さんの妹さんの結婚式をお手伝いしたの?」


 小堀さんに聞かれる。


「はい、二宮さんと手伝わせてもらいました」


 するとまた次々とみんな言葉を続ける。


「いいわねえ、結婚式なんて何年ぶりかしら」


「たまに行われるのはお葬式だしね」


「参列するたびに次は自分かなって思うのよね」


「やめて、洒落にならないから」


 そう言ってみんなで笑ってる。


 こういう高齢者特有のブラックジョークはどう絡んだらいいのか分からない。


 このときは私の隣に星川兄妹の妹、理緒ちゃんが座っていた。


 その隣には理緒ちゃんのお母さん、その向こうには大我くん。


 理緒ちゃんはミートソースで口回りをベタベタにしながら話しかけてきた。


「たかつじさんは、教会たのしい?」


 無邪気に聞いてくる。


「うん、楽しいよ。いろんな人とお話しできるっていいよね」


 今日は少し離れたところに杏奈ちゃんもいて、お母さんと並んで座っていた。


 教会には一人で来てる人も多いけど、ご夫婦、そして家族で来てる人も珍しくない。


 そう言う光景がほほえましくもあり、羨ましくもあった。



─────────────────────




 茶話会も終わり、食器を片付けテーブルを拭いていると「高辻さん」と声をかけられた。


 振り向くとそこには意外な人物がいた。


 杏奈ちゃんだった。


 杏奈ちゃんが私に話しかけてくるなんて、どうしたんだろう。


「高辻さん、このあとお時間ありませんか?」


「え?」


「あの、ちょっと……、お話ししたいことがあって……」


 語尾がどんどん小さくなっていく。


 おとなしい杏奈ちゃんがこうやって話しかけてくるなんて、かなり勇気を振り絞ってるに違いない。


 私は、敢えて明るく答えた。


「いいよ、どこかでお茶しようか」


 すると杏奈ちゃんは少しほっとした表情を見せた。


「ありがとうございます。お母さんには先に帰ってって言ってきます」


 そう言って杏奈ちゃんは軽く頭を下げて、去っていった。




 片付けも終わり、教会の入り口で待ってた杏奈ちゃんと落ち合う。


「お待たせ。どこに行こうか?」


「すぐそこにマクドナルドがありますけど……」


「そうだね……」


 確かにマックはあるけど、あまり落ち着いて話せる雰囲気じゃないな。


 今回はじっくり話せそうなところがいい気がして、私は別のお店を提案した。


「ちょっと雰囲気のいいカフェを知ってるの。5分くらい歩くけど、そこでどう?」


 そう聞くと杏奈ちゃんは頷いた。




 杏奈ちゃんをつれて入ったカフェは、こぢんまりした落ち着きのあるカフェだった。


 店主の女性が一人で切り盛りしていて、私は行友テックの打ち合わせ帰りによく利用していた。


 とにかくここはチーズケーキが絶品なのだ。


 メニューを見てる杏奈ちゃんにそれを伝えると、「チーズケーキ……」と目を輝かせた。


 でもちょっとためらってる感じもあったので、私は半ば強引に言った。


「私も食べたいから二つ頼もう。もちろんご馳走するから。飲み物は何にする?」


 杏奈ちゃんはオレンジジュース、私はアイスコーヒーを選び、チーズケーキを注文した。



 ケーキが来るまで沈黙が続く。


 これはどうしたらいいんだろう。


 こっちから切り出した方がいいのか、杏奈ちゃんのタイミングを待つか。


 これぐらいの年齢の子ってどう接したらいいのか分からない。


 するとチーズケーキとドリンクが運ばれてきた。


「取り敢えず食べようか」


 すると杏奈ちゃんは手を組み軽く目を閉じた。


 そして目を開け、「いただきます」と言って食べ始めた。


 この子は小さい頃からお祈りする習慣が身に付いてるんだな。


 一口チーズケーキを口に運んだ杏奈ちゃんは、目を見開いて呟いた。


「おいしい……」


 それを聞いてほっとする。


「よかった。口に合って。ここはフルーツパフェも美味しいんだよ。あとは……」


 また語りそうになって、はっと口を閉じる。


 これじゃ私、榊原牧師のこと言えないわ。


 半分くらい食べ進めたところで、杏奈ちゃんはフォークを置いた。


「高辻さん。今日はご相談したいことがあって」


 ついに来たと思い、軽く緊張しながら私もフォークを置いた。


「何?」



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