第16話 五月の光の中で
教会の入り口に黒塗りのタクシーがつき、ドアが開く。
出てきたのは光沢あるグレーのタキシードを着た新郎、そしてまばゆい真っ白なウェディングドレスをまとった新婦だった。
入り口まで出迎えた夕香さんが、花嫁をそっと支える。
「足元気を付けて?段差があるから」
「ありがとう。お姉ちゃん」
初めて見た夕香さんの妹さんは、小柄な夕香さんと違いスラッとした背の高い綺麗な人だった。
雰囲気の違う二人だけど目元がそっくりだったので、姉妹だと分かる。
妹さんは私たちを見るとニコッと笑った。
「初めまして。夕香の妹の沙弥香です。今日はよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げられる。
私たちも頭を下げて挨拶をした。
5月の陽光のもと、沙弥香さんはキラキラと輝き圧倒的なオーラを放っていた。
その美しさに息を飲む。
花嫁さんってこんなにきれいなんだ……。
とりあえず式が始まるまで、集会室の方で待機してもらう。
夕香さんがドレスの裾とベールをまとめて持ってそちらへ案内していた。
そして式が始まる時間になった。
着席していた参列者は起立し、牧師は正面に立ち新郎もその前で立っている。
玄関のところで沙弥香さんはベールを下ろして立ち、その腕を横に立つお父さんに絡めた。
そしてパイプオルガンのウェディングマーチが鳴り響く。
それを聞いて、沙弥香さんとお父さんはゆっくり入場していった。
二人が礼拝堂に入って行くと、ドアのところに控えていた二宮さんと私は扉を閉めた。
そこで私たちは式を見守ることになった。
二人はゆっくり進み新郎のところにたどり着くと、お父さんは沙弥香さんの腕を新郎に託した。
そしてお父さんは席に着き、新郎新婦が揃って式が始まった。
まずは讃美歌を歌う。
このとき歌ったのは312番、「いつくしみ深き」と始まる歌詞の讃美歌だ。
何となく聞いたことがある人も多いので、みんなそれなりに歌っている。
讃美歌が終わった後着席するよう牧師が促し、参列者は着席した。
ここで牧師の祈祷が始まる。
「恵みと憐れみに満ちた天の父なる神様、 あなたの御名を賛美いたします。
私たちは今、藤山零士さんと守口沙弥香さんの結婚式のために、ここに集まりました。
この尊い集まりの中心に、あなたご自身が共にいてくださり、式次第の一つ一つを導き、豊かな祝福を与えてくださいますよう、心からお願い申し上げます。
私たちの主、イエス・キリストの御名によって祈ります」
「アーメン」
新郎側の参列者は戸惑ってるようだけど、新婦側は唱えている。
夕香さんのお父さんは牧師だから、親族にもクリスチャンが多いのかもしれない。
「聖書を拝読いたします」
言って榊原牧師は聖書を読み上げる。
その箇所は「コリントの信徒への手紙一 13章4-8節」だった。
「愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢しない。高ぶらない。礼儀に反することもしない。自分の利益を求めない。いら立たない。恨みを抱かない。不正を喜ばず、真実を喜ぶ。すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを耐え忍ぶ。愛は決して滅びない。」
牧師は聖書を閉じると、静かに語り始めた。
「愛は時に、忍耐を、そして赦しを求めます。
お二人がこれから歩む道は、決して平坦ではないでしょう。
しかし困難の中にあっても、神が共に歩まれるという約束があります。
どうか互いを大切にし、今日ここにいる皆さまに支えられながら、新しい家庭を築いていってください」
私はその言葉を聞きながら、結婚式の厳かさとは別に、胸の奥がじんわり温かくなっていくのを感じた。
その後は誓約だ。
「病めるときも健やかなるときもお互いを支え、愛することを誓いますか?」
「誓います」
二人ははっきりと答える。
そして指輪の交換が行われた。
牧師が差し出した箱に入っている指輪をお互いの指にはめ合う。
それを確認し、牧師が宣言を行った。
「藤山零士さん、守口沙弥香さん。 今、お二人は神様の前で、またここにいる証人たちの前で、生涯を共にすることを誓い、そのしるしとして指輪を交換されました。 まことに、神が結び合わせてくださったものを、人は離してはなりません。 主イエス・キリストの御名によって、お二人が夫婦となられたことを宣言いたします。 アーメン」
その後、結婚証書というものに新郎新婦、そして牧師が署名を行う。
そして最後、牧師は右手を上げていつになく凛とした声を響かせながら祝祷を行った。
「主イエス・キリストの恵み、神の愛、聖霊の交わりが、 藤山零士・守口沙弥香夫妻と共に、 また、ここに集うすべての神の民と共に、 いつまでも、とこしえにありますように」
一瞬の静寂のあと、その場にいた全員が斉唱した。
「アーメン」
そこで再びパイプオルガンの奏楽が響く。
こちらを振り向いた二人は、満面の笑顔で笑っていた。
そんな二人を参列者全員で拍手で祝う。
これで二人は神様の前で愛を誓い、夫婦となったんだ。
初対面の二人だけど、何だか泣きそうになっていた。
その後しばらく写真撮影をしたり参列者同士で歓談したりしていたけど、呼んでいたタクシーが到着したので皆さんそれに乗り込んでいった。
最後に夕香さんのご両親が改めてお礼を言ってきた。
お二人とも何だか目が潤んでるように見えた。
この後近くのレストランで披露宴をやるらしく、夕香さんもご両親と一緒にタクシーに乗り込んで教会を後にした。
残った二宮さんと私で後片付けをしていく。
バージンロードを丸め、長椅子を戻す。
その作業をしながら、さっきの結婚式を思い出していた。
特に派手な演出はない。
何なら誓いのキスもなかった。
でも心に響く余韻、確かに残る神様への誓い。
この結婚式をこうやって見守れたことに、私は感謝していた。




