第15話 復活祭のあと、祝福へ続く道
「絵を描くの、好きなんで」
そう言った後、杏奈ちゃんはまた絵を描くのに集中し始めた。
それをぼんやり見つめる。
そう言えば私も学生の頃は絵を描いていたな……。
私の場合は漫画やアニメが好きで、それの真似をしていろいろ描いてた。
プロになりたいとまでは思ってなかったけど、いつから描かなくなったんだっけ……。
「絵を描くって楽しいよね」
思わず独り言のように呟く。
それに杏奈ちゃんの手が止まった。
「私も杏奈ちゃんの歳ぐらいの時は絵を描いてたよ。漫画みたいな絵だったけど。あのときは描くのが楽しくて仕方なかったけど、結局やめちゃったなあ……」
そこで杏奈ちゃんがすっかり固まってることに気づく。
「あ、ごめん。邪魔して。うっかり思い出に浸っちゃった」
「いえ……」
杏奈ちゃんは相変わらずこっちを見ずに、また絵を描き始めた。
それを見てほっとする。
まずい、口うるさいおばさんだって思われたかな。大人しくしとこう。
そう思い、私も自分の卵に絵を描き始めた。
卵への色付けが終わり、みんなでそれぞれ見せ合う。
カラフルに色付けされたそれらはとても個性的で、見てるだけで春だなと感じられた。
そのあと自分で色付けした卵を持ち帰ることになり、私も3個持ち帰ることにした。
今夜ひとつ食べて、ひとつは明日のお弁当にでも持っていこうかな。
あの殺風景なオフィスにカラフルなイースターエッグを持っていくと考えると少し笑えてくるけど、それもなんだか楽しい気がした。
あともうひとつ嬉しい知らせがあった。
彩希に合う抗がん剤が見つかったとのことだった。
グループLINEでその報告があった時には既にかなり効果も出ていて癌も小さくなっており、乳房を温存した手術も予定されていると書かれていた。
久しぶりにグループLINEが賑わう。
本当に良かった。
その夜の黙祷で、私は心から神様に感謝した。
神様、本当にありがとうございます。
どうかこのまま彩希に健やかな日々が訪れますように。
主の御名によって祈ります。
アーメン
─────────────────────
「結婚式ですか?」
5月に入ってすぐの日曜日、礼拝後に私は夕香さんに誘われ牧師館でお茶をしていた。
教会とドア一枚で繋がっているその家は、外見は普通の戸建てなのに中に入ると不思議と教会の気配が残っている。
夕香さんのお腹は少しふっくらしてきていて、安定期に入ったと聞いて私もほっとした。
最近はつわりも落ち着いてきたらしく、顔色も良い。
教会でも妊娠がオープンになり、みんな新しい命が生まれることをとても喜んでいた。
「はい、再来週の日曜日の午後、うちの妹がこの教会で結婚式を挙げるんです」
結婚式……!
「そうなんですか。おめでとうございます!」
「ありがとうございます。それで実は高辻さんにお願いがあって……」
「何ですか?」
「当日のお手伝いをお願いできないかと思って」
「お手伝い?」
聞けば夕香さんの妹さんの結婚式を執り行うのは榊原牧師で、夕香さんも親族として立ち会うけど、その式でちょっとした案内係をしてほしいというものだった。
式は親族だけのこぢんまりとしたものだけど、その時は教会員ではない一般の人も来る。
その人たちにお手洗いを案内したり、セルフサービスのお茶を用意してほしいということだった。
「そうなんです。本当は別の方にお願いしてたんですけど急用ができてしまって。なので高辻さんにお願いできないかと思って」
「やります」
秒で答える。
教会の結婚式なんてなかなか見られるものじゃない。
「私、結婚式場のチャペルの式しか見たことないんで、是非お手伝いしたいです」
夕香さんはほっとした顔をした。
「ありがとうございます。無理を言ってごめんなさい」
「高辻さん、ありがとうございます」
礼拝を終えて着替えた榊原牧師も出てきた。
いつもは教会でスーツにローブを羽織ってる姿しか見たことないから、ラフなシャツにジーンズ姿の牧師は少し違和感がある。
「いえ、せっかくの機会なんで是非お手伝いさせてください」
─────────────────────
そうして結婚式の日がやってきた。
いつも通り礼拝が終わり、残った二宮さんと私で長椅子を脇に避け、中央を空ける。
最後にバージンロードを敷くとそれだけでいつもの礼拝堂とは違う、お祝い事の雰囲気になった。
少し汗だくになったけど、二宮さんと協力できて本当に楽しい。
時間になり参列者の人たちが続々とやってくる。
初めて来た教会に戸惑ってる姿は、少し前の自分を見てるような気がした。
参列者たちを新郎側新婦側に振り分け、椅子に座っていってもらう。
そこで初めて夕香さんのご両親にもお会いした。
事前に聞いていたけど、夕香さんのお父さんも牧師だった。
他の戸惑っている参列者と違い、やっぱり教会でも堂々としている。
でも顔はにこやかで、私たちにも丁寧に挨拶をしてくれた。
そうしているうちに新郎新婦がタクシーで教会にやって来た。




