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第13話 小さな祈り、小さな現実

 それから私は教会に通うようになった。


 毎週ではないけど、行けそうなときは行く。


 徐々に塩見さんや二宮さん、小堀さん以外の教会員たちとも話をするようになっていった。


 正直、こんなに年齢の離れた人達と話す機会は今までなかったけど、それは私にとって心地いい癒しと刺激になっていった。


 仕事関係とも、同世代の友人たちとも違う、でもここでなければ話すこともなかったであろう人たち。


 この独特のコミュニティが私にとって居心地が良かったのだ。


 そして少しずつ私の日常の生活も変わっていった。


 一番大きな変化は、寝る前に黙祷をするようになったことだ。


 神様は常に傍にいてくださると言う考えなので、私が家で一人で祈ってもそれは神様に通じると聞いてからは、私はベッドに入ると黙祷をするようになっていた。


 と言っても、あまり立派なことは祈れないけど。


 昨夜祈ったことは


 天の父なる神様。

 今日も1日無事に過ごせたことを感謝いたします。

 仕事では少しムカつくこともありましたが、冷静に対処することができました。

 明日もお守りください。

 そして彩希の病気が1日も早く良くなりますように。

 この祈りを主の御名によってお捧げいたします。

 アーメン。



 ……こんなのでいいのかな?と疑問ではある。


 教会での皆さんのお祈りはもっと落ち着いてて言葉選びも丁寧だ。


 でも、私の正直な気持ちを神様に伝えられたらそれでいいか、と思うことにした。



─────────────────────



 3月の半ばの日曜日、この日はいつになく礼拝の出席者が多かった。


 40人は軽く越えてたと思う。


 理由は、この行友教会の予算会議が礼拝後に行われるからだ。


 参加できるのは教会員のみ、要は洗礼か信仰告白を済ませた人だけなので私に参加資格はないんだけど、榊原牧師が見学と言う形で私にも参加を促してくれた。


 キリスト教会でリアルなお金の話と言うのは違和感があるけど、でもやっぱり宗教とお金は切り離せないのかもしれない。




 礼拝後、そのまま予算会議が始まった。


 配られた資料を見ると、そこにはこの行友教会の年間の収支が細々と記されていた。


 それによると教会の年間総収入は1050万円。


 その収入は大半が献金で賄われている。


 礼拝の時に納める献金は小銭でも構わないんだけど、教会員になると月定献金の義務が発生する。


 その額は個人で決めていいんだけど、大体1~2万円の人が多いらしい。


 そしてクリスマスやイースターなどイベントの時には追加の献金のお願いもある。


 私は教会員じゃないから月定献金の義務はないんだけど、教会の運営は献金で全て賄っていると聞いてからは、日曜礼拝の献金は毎回1000円納めるようにしていた。



 そして、その総収入から謝儀として牧師への給料が支払われていた。


 その額は350万円。


 え? 牧師の給料って献金から支払われてるの? 年収350万円って少なくない?


 と思ったけど、この行友教会には牧師館があり牧師夫婦はそこに住んでいて、家賃と光熱費の負担はないとのことだった。


 家賃の負担がないならこの年収でもやっていけるのかな?


 いやでも子どもも生まれるしどうなんだろう……。


 あとの予算の使い道は教会の光熱費、建物の維持費、パイプオルガンのメンテナンス費、聖書や讃美歌などの教材の購入費、雑費や消耗品の購入費、茶話会の食材費などみっしりと書かれている。


 税金よりクリアになってるお金の収支に舌を巻く。


 献金の時は神様にお捧げしますと言う名目で納めるけど、結局はリアルな使い道で消えていくんだ。



 このまますんなり行くのかと思ったら、ある男性が声をあげた。


「正直、献金が負担になっている信徒は多いです。ほとんどが年金生活で物価は上がってるのに収入は増えない。もっと予算を削れないですか?」


 すると会計担当と思われる50代の男性が反応する。


「これでもギリギリです。建物修繕費を積み立ててますが、この間台所で雨漏りがあったので、そっちで予備費を使わざるを得なくなってます。あとエアコンも調子が悪いし……」


「パイプオルガンの維持費がね……、ある教会は今どき珍しいんだからもっと売り出せないですか? もっとコンサート増やすとかオルガン教室でもやるとか」


「前から思ってたけどホームページもショボいんですよね。あれを変えないと来たいって思う人はいないかも。広告費は大事ですよ」


「牧師の謝儀が高すぎません?牧師館があるんだからもっと抑えられるでしょう。年金生活者はもっと厳しい生活を送ってるのに」


「いやいや、牧師はまだ若いし年金生活者とは違いますよ。謝儀をけちって牧師に逃げられたら元も子もない」


 すると榊原牧師は言いにくそうに言った。


「逃げはしませんけど、……これ以上謝儀を下げられたら正直厳しいとは思います。もちろん皆さんの生活も大変だと分かりますから無理は言えませんが……」


 宗教団体のお金の話だとは思えないくらい、生々しい会話が飛び交う。


 結局、教会運営にはお金がいるのは事実なんだ。


 それを支える献金を納める教会員の大半が高齢者で収入も限られている。


 小さくもリアルなコミュニティの問題がここに凝縮されていた。


 ……そう言えば今日は夕香さんを見かけないな。


 体調が悪いんだろうか。


 そっちも心配になっていた。



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