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第11話 ハヤシライスとマナの恵み

 さっきまで神聖な儀式を行っていた礼拝堂内に、奥の部屋から折り畳み式のテーブルが運ばれてきて組み立てられ並べられていく。


 それに沿って長椅子たちも並べ変えられ、一気に雰囲気はワイワイとした気さくなものとなった。


 それらを部屋の隅で見つめていると、入口で受付をしていた女性、二宮さんが声をかけてきてくれた。


「高辻さん、どうぞお座りください。私も隣に座るんで」


 そう言ってある椅子に案内してくれたので、言われるがままにそこに座る。


 ある人たちは余った椅子を隅に寄せたり、ある人はスプーンやコップを並べ出したりして、みんな忙しそうに動き回っていた。


「あの、私も何かお手伝いしなくていいですか?」


 座ったままで申し訳ない気持ちになって二宮さんに聞くと、二宮さんは笑顔で答えた。


「いえいえ、そのままお待ちになってください。今日の茶話会は高辻さんの歓迎会でもあるので」


「は、はい……」


 そうしてる間に、お皿に盛られたハヤシライスが運ばれてきた。


 ほかほかに湯気をたてて美味しそうな匂いがしている。


 それらが一気に並べられていき、隣にサラダとみかんが1個添えられ、会食の準備が整っていった。


 そうして私の回りにも人が座っていく。


 やっぱり最初の印象の通り高齢の、それも女性が多い印象だ。


 みんな私をにこにこしながら見つめてくれている。


 するとある男性、多分初めての礼拝の時に司会をしていた50歳くらいの男性が前で声をあげた。


「食前のお祈りをいたします。皆さん、席に着いてください」


 その一言で、ざわついていた室内の空気は一気に静まり返り、みんな下を向いて目を閉じた。


「天の父なる神様。あなたのいつくしみに感謝してこの食事を頂きます。ここに用意されたものを祝福し私たちの心と体を支える糧としてください。私たちの主、イエス・キリストによって祈ります」


 その言葉の後、一瞬の間があって全員が唱えた。



「アーメン」



 そしてまた一気にワイワイと賑やかな雰囲気になり、みんな「いただきます」とそれぞれ口にして食べ始めた。


 この緩急の差についていけずにいながらも、私もいただきますといい、ハヤシライスを口にした。


 おいしい。


 誰かが手作りしたと思うそれは、家庭の味がした。


 食べながら隣の二宮さんが話しかけてきた。


「高辻さんは、何をきっかけに教会に来られたんですか?」


 口に含んだハヤシライスを飲み込んだあと答える。


「クリスマスイブの夜にたまたま前を通りかかって……、そこから通い始めました」


 するとその答えに、周りの人が反応した。


「まあ、クリスマスから来られたのね」


「やっぱり燭火礼拝は雰囲気がいいからねえ」


 それを機に他の人たちも話しかけてきた。


「こうやって新しい方が来てくださるの、本当に嬉しいわ」


「それもこんなに若くて可愛らしい人がね」


「本当は早く話しかけたかったんだけど、こんなおばあちゃんが話しかけてもご迷惑かなと思ちゃってね」


「分かるわ、私もうちの息子の嫁に気を遣ってなかなか連絡できないし」


 皆さんにこにこと話している。


 すると右隣に座っていた60代くらいの白髪でおしゃれな雰囲気の女性も声をかけてきた。


「私は小堀こぼりといいます。もうここに30年も通ってるの。よろしくお願いしますね」


 慌てて私も自己紹介をした。


「高辻茉那です。よろしくお願いします」


 するとそれを聞いた周りの人たちが次々に声を上げた。


「茉那さんとおっしゃるのね、いいお名前ね」


「素敵。まさに神様のお恵みだわ」


「やっぱり教会に招かれたのも意味があるのかもしれないわね」


 ……この反応は塩見さんや榊原牧師の時と同じだ。


「あの、マナって何かキリスト教的に意味があるんですか?」


 思わず聞いてみると、隣の二宮さんが微笑みながら答えてくれた。


「ご存知なかったんですね。高辻さんはモーセって聞いたことあります?」


 モーセ?


 記憶を何とか辿ってみる。


「モーセって、……確か海を割ったおじさんでしたっけ?」


 するとその場にいた人たちが一斉に笑いだした。


 変なことを言ったかと不安になってると、二宮さんもちょっと笑いをこらえながら説明してくれた。


「ごめんなさい。ちょっと新鮮なお答えだったので。実際はモーセが海を割ったんじゃなく、神様に祈ったら神様が海を割って道を作ってくださったと言う流れなんです」


「はあ……」


 それがマナとどう繋がるんだろう。


「ちょっと説明すると、あの時代エジプトでイスラエルの人たちが虐げられてたんです。それで神様がモーセにイスラエルの民を連れて逃げるようにお告げをされ、モーセたちはそれに従って逃げました」


「はい……」


「後ろからエジプト軍が追いかけてきてモーセたちは海に追い詰められました。そこでモーセが神様に祈ると海が割れて道ができ、イスラエルの人達は新しい土地へ逃げることができました」


「……」


 思わず話に聞き入る。


「新天地へ逃げることに成功はしたんですけど、そこは荒れ地で食料も水もなく、人々は飢えに苦しみました。そこでモーセはまた神様に祈りました。すると神様はそれから毎日食べ物を天から降らせて下さいました。それをマナっていうんです」


「え……」


 二宮さんは微笑んだ。


「だからキリスト教では、マナって神様からの恵みの象徴なんですよ」


 その話を聞いて周りの人たちもうんうんと頷いている。


「なのでクリスチャンはマナって言葉に反応しちゃうんです。気にしないでくださいね」


 そう言って二宮さんはスプーンが止まってた私に、ハヤシライスが温かいうちに食べるように促した。


 食べながら自分の名前について考える。


 そんな意味があったんだ……。


 多分うちの家族にはキリスト教に関係してる人はいないからたまたまだと思うけど、何だか初めて自分の名前が誇らしい気がしてきた。



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