贄の森血の連鎖
直樹は霧隠の里に足を踏み入れた瞬間、胸に冷たいざわめきを感じた。3年前、「贄ノ森」の悪夢――集落全員が共犯の生贄儀式、葵と悠斗の犠牲を脱した直樹と彩音は、都会で平穏を掴みかけていた。だが、彩音の父の転勤でこの山奥の集落に引っ越してきた。夏の夕暮れ、湿った土の匂いと霧が漂う里は静かだが、直樹の霊感が不気味な波動を捉える。スマホの電波は1本、ネットは遅延だらけだ。
「直樹、なんか…変な感じしない?」 彩音が囁く。ショートカットの髪が霧に揺れ、彼女の霊感も里の空気を警戒していた。「でも、みんな親切そうじゃん?」 彼女の笑顔は明るいが、瞳には3年前の傷が宿る。直樹は頷き、スマホのライトを握り直す。
里の広場で、青年・翔が笑顔で話しかけてきた。「よ、新顔! 霧隠の里はのんびりだよ。夏祭りも近いし、楽しんでけ!」 彼の目は温かく、SNSで「里のイケメン」と噂される好青年だ。だが、直樹の霊感が、翔の笑顔の裏に微かな闇を感じ取る。
その夜、直樹は夢を見た。暗い森、土を掘る囁き。「還せ…私の命を…」 葵の声が響き、目覚めると枕元に湿った土の塊が落ちていた。土の匂いが鼻をつく。彩音も同じ夢を見たと言い、震える。「姉貴の声…まだ消えない。」 彼女のスマホには、匿名SNSで「里の呪い」の噂が流れていた。
翌日、里の学校で、少女・美咲が突然姿を消した。「友達と旅行だって」と翔が笑うが、直樹の霊感が危険を告げる。彩音も言う。「美咲の気配、急に途切れた…あの森と同じだ。」 二人は里外れの古い祠へ向かった。苔むした石碑に「贄」の文字が浮かぶ。彩音が触れそうになり、直樹が止める。「ダメだ! あの石碑とそっくりだ!」 霧が濃くなり、スマホのライトが揺れる。
祠の番人、老女の奈津が現れた。「この里は古の神に守られてるよ。贄を捧げれば、呪いから逃れられるのさ。」 彼女の笑顔は優しいが、霊感がその裏の冷たさを感じ取る。
直樹と彩音は、美咲の行方を追う。夜の里、霧深い山道で、翔が美咲のキーホルダーを持っているのを見かける。「…なんで?」 直樹が囁くと、彩音が震える。「尾行しよう。」 二人はスマホを手に息を潜め、翔を追う。森の奥で、翔が里の若者たちと集まり、松明を手に囁きを交わしていた。地面に縛られた美咲が、恐怖に震えている。「神の贄、受け入れなさい。」 翔の声は優しく、まるで慰めるようだ。
彩音が囁く。「見つかったら…終わる。」 だが、木の陰で音を立て、翔の目が二人を捉えた。「お前ら…見たんだな?」 彼の笑顔は変わらないが、目が異様な光を放つ。スマホの電波が途切れる。
逃げる直樹と彩音。里人たちが追いかけてくる。教師の陽子が言う。「神のためだよ。仕方ないの。」 彼女の目は穏やかだが、声に狂気が滲む。彩音の友人、梨花も現れ、涙ながらに言う。「彩音、ごめん…里を守るためなの。」 いつも優しかった人々が、松明を手に追い詰める姿に、二人は愕然とする。
霧の中、影のような葵が現れた。「彩音…逃げて…」 彼女の目は闇に溶け、声は冷たいが、愛に満ちている。悠斗も現れ、囁く。「直樹…まだ終わってない。」 霊感が、3年前の未練と新たな怨念を捉える。彩音が涙声で言う。「�姉貴…またこんな里で…」
里人たちの追跡は執拗だった。古い倉庫に隠れる直樹と彩音。狭い空間、彩音の濡れた服が肌に張り付き、肩が触れる。「…近い、ごめん。」 彩音の顔が赤らむ。直樹は彼女の怯えた瞳に、守りたいと強く思う。「絶対逃げよう、彩音。」 手が触れ合い、心が近づく。スマホの画面は「圏外」だ。
倉庫の外で、翔の声。「見つけたよ。神の贄を逃がすな!」 彼の目は、楽しむように光る。直樹が叫ぶ。「何で美咲を! 何でこんなこと続ける!」 翔が笑う。「俺が美咲を縛った。神のためだ。」 霊感が、翔の言葉に嘘がないことを感じ、疑う。
陽子が現れ、穏やかに言う。「翔だけじゃないよ。里の掟だ。」 彼女の目は、まるで慈愛に満ちている。梨花も言う。「彩音、ごめん…私もやらなきゃいけなかったの。」 霊感が、彼女たちの罪悪感と狂気を捉える。
森の奥、古い祭壇にたどり着く。苔むした石、松明の炎、里人たちが囁きを交わす。奈津が言う。「贄を捧げねば、里は呪われる。」 彼女の笑顔は、まるで母のようだ。直樹が叫ぶ。「美咲を誰が傷つけた!」 翔が笑う。「俺だ。神のために縛った。」 陽子が囁く。「掟のためよ。」 梨花が涙声で言う。「仕方なかったの…」
祭壇の周りで幻が広がる。美咲が縛られ、土に沈む瞬間。彼女の囁き。「誰か…助けて…」 土を動かすのは、影のような手々。「里の安寧のため、贄が必要だった。」 奈津の声は優しいが、里人たちの目は狂気に濡れている。直樹と彩音は愕然とする。「この里も…全員が?」
幻は遡る。古の神の呪い伝説が里に根付き、若者を贄とする掟が生まれた。SNSでは「霧隠の里の呪い」が都市伝説として囁かれていた。優しい笑顔の里人たちは、裏で呪いに縛られ、繰り返し贄を捧げていた。葵の声。「彩音…この里も同じ闇…」 悠斗の声。「直樹…壊せ…」
彩音は涙を流す。「姉貴…こんな里でも、私を…」 直樹も呟く。「兄貴…3年経っても守ってくれるのか。」 葵が現れ、静かに言う。「彩音、幸せになって。私の分まで。」 悠斗も微笑む。「直樹、この狂気を終わらせろ。」 影のような姿なのに、声は温かい。
直樹は祭壇の石碑を壊す。「こんな呪い、終わらせる!」 彩音も叫ぶ。「姉貴の想い、ムダにしない!」 地面が揺れ、松明が消える。里人たちの囁きが止まり、霧が晴れる。葵と悠斗が最後に微笑み、消える。「ありがとう…今度こそ、休める。」
朝日が山を照らす。直樹と彩音は里を後にする。「もうこんな場所、うんざりだ」と直樹が言う。彩音が頷き、手を握る。「でも…どこへ行っても、一緒だよ。」 直樹は微笑む。「ああ、約束な。」 スマホに電波が戻り、葵と悠斗の愛は二人を永遠に守り、未来への希望が広がった。
END