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ある技術屋の一幕

作者: 光井 雪平

「来週までにこいつをですか?」


 俺は突然現れた偉そうな態度をしながらじゃらじゃらと勲章をつけた上官である大佐様に尋ねる。


「ああそうだ」

「そいつは難しいですな。現在の完成度は7割弱。元々の完成予定は来月です。テストもするとなると」

「テストはこちらで受け持つ。貴様らはただこいつを完成させろ」


 俺の苦言をばっさりと切り捨てるように大佐様は言い放つ。


「しかしですな、技術屋として言わせてもらえば


 俺が言葉を続けようとした瞬間、俺の視界に火花が散る。遅れてきた頬の痛みで、自分が殴られたのだと理解する。


「貴様の意見は必要ない。これは命令だ」


 大佐様は言い放つ。俺は「申し訳ありません。ご命令了解しました。早速作業を急がせます」


 大佐様は満足したようで、引き連れてきた部下とともに去っていく。


 俺は作業を急ぐように指示をだす。大佐様たちが去った後、俺の同僚の一人が救急箱をもって近づいてくる。


「大丈夫か?」

「ああ問題ない。かすり傷みたいなもんさ」

「たくっあいつらめ。いきなり現れて横柄な態度ばかりで」


 同僚が今はいなくなった大佐様たちに向けて、敵意だらけで言う。「こっちが仕事をしなきゃどうなるかわかってんのか」と続ける。


「やめとけ、やめとけ。大佐様も大変なんだろうさ。戦況は悪化の一途と聞いてるしな」

「だけどよお」

「お前の言いたいはわかるがな、押さえろ」


 俺は同僚の肩をポンポンとたたく。同僚は落ち着いた様子を見せ、「仕事に戻る」とだけ短く言うと仕事に戻っていく。


 俺は同僚が去ると、後ろを振り向く。


 そして、見上げる。それを。


 今自分たちが作っている新型兵器を。


 宇宙空間での戦闘を主目的とした、人型機動兵器。


 我が国のすべての技術を結集し、また過去の大戦で使われ、今は失われた技術も活用して、作成中のこの戦争を変えるかもしれない兵器。


「こいつを来週までにか、まったく上は無茶ばかりだな」


 誰にも聞こえないようにぼそりとつぶやく。


 完成させても、テストはできないだろう。最初のテストは恐らく実戦となる。


 この兵器に乗った人物は悲劇に遭うかもしれない。


 まともな戦闘もできず、ただ死ぬ。


 出撃した瞬間に爆発四散するかもしれない。


 そもそも動くことすらないかもしれない。


 そして、我々技術屋の責任にされる。納期を切り上げたのはあちらだというのに。


 だが、だとしてもやるしかないのだ。


 それが我々の仕事なのだから。


 だからこそ、確実に完成させる。確実に結果がでるように。


 この機体が悲劇を起こさぬように。


 この機体の名前の由来となった言葉の通りになるように。


 願いを込める。


「エスポワール、完成させてみせるさ、完璧にな」


 俺は仕事に戻る。


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