9 祭りのようなイベント
公園の周りに設置された屋台。
集まった大勢の人たち。
中央には簡単なつくりだが櫓も設置された。
「お集まりいただいた皆様。
お忙しい中、足を運んで下さりありがとうございます」
櫓に昇った田淵が挨拶をする。
「本日、とある方の提案で、
かつてここにあった村で行われていた祭りを、
久しぶりに開催することとなりました。
何かと制限の多いご時世でしたが、
ようやく明るい兆しが――」
冗長な演説がだらだらと続く。
集まった子供たちは早く終わらないかと不満そう。
子供たちは偽物の腕や足を生やしていたり、羽根やしっぽや角をつけたりと、様々な衣装を身に着けている。
ぱっと見ハロウィンのイベントっぽい光景である。
集まったのは隣の集落の住人とその親類。
別の街に移住した人たちまで駆けつけてくれて、かなりの人数が集まった。
と言っても100人にも満たないが……このご時世でこれだけ人が集まるのも珍しい。
感染対策もばっちりで、全員がマスク着用。
消毒液も用意してある。
「それではみなさま。
本日は心行くまで楽しんで行ってください」
「「「ぱちぱちぱち」」」
田淵の長ったらしい話がようやく終わった。
子供たちは一斉に出店へと向かう。
出店を運営しているのはこの集落の出身者である老人たち。
焼きそばや綿あめなどの食べ物や、射的や輪投げなどのゲームなど、縁日でおなじみの出店を開いてくれた。
テーブルを並べてそれっぽく飾りつけただけの簡素なものだが、子どもたちは喜んでいる。
色々と制限の多い時世だから、こういう時くらいは楽しんでほしい。
「いやぁ、君の言うとおりにしてよかったよぉ。
大成功だ、大成功!」
缶ビールを片手に田淵が話しかけて来た。
すでに酔っぱらっているのか顔が赤い。
「で、いまは何をしてるんだ?」
「見て分かりませんか?
写真をとってるんですよ」
俺はスマホで子どもたちの姿を撮影している。
できるだけ鮮明に記録を残しておきたい。
「はん、その写真をどうするつもりだ?」
「あらかじめ許可を頂いていたと思いますが、
ネットに投稿する予定です。
子どもたちは被り物をしていますし、
大人はマスクをしているので顔は見えません」
「なんでそんなことを?」
酔っぱらった田淵が不思議そうに顔をかしげる。
この人はマスクを着けていないので写さないようにしないとなぁ。
「誤解を解くためですよ」
「え? 誤解?」
「忘れたんですか?
SNSとかで広がっている例の噂ですよ。
この公園で人のようなものが遊んでるって」
「ああ……そう言えば」
連日の解体作業に夢中になっていたからか、田淵はすっかりネットの噂について忘れてしまっていた。
一番肝心な事だと思うんだけどな……。
「あの噂はここで行われていた祭りが元ネタです。
誰かが写真をネットに投稿して噂を広げたんでしょう。
白黒の写真だと被写体の姿がハッキリしなくて、
不気味に見えるものもいくつかありましたからねぇ」
「でも、廃屋を解体したんだから、十分じゃないか?
わざわざ写真を投稿しなおす必要があるのか?」
田淵は俺が何をしようとしているのか、まだよく分かっていないようだった。
後でちゃんと説明しておこう。
「ネットの噂って、曖昧さが原因になってるんですよ」
「曖昧さ?」
「この写真を見て下さい」
俺はネットからダウンロードした白黒写真を差し出す。
そこには遊具で遊んでいる当時の子供たちが映っていた。
手前の仮装をしていない子供たちにフォーカスしているので、奥にいる仮装をした子供は輪郭がぼやけて得体のしれない存在のように見える。
「この写真、一見すると不思議な光景に見えるんですけど。
正体が分かればただの仮装だって見抜けるでしょ?
でも知らずに見た人たちには正体が分からないので、
不気味に見えてしまうんです」
「へぇ……それで?」
「説明するんですよ、丁寧に」
「説明ぃ?」
酔っぱらっている田淵には何のことだか全く理解できていない。
ちゃんと説明するのは後にしよう。
「まぁ、見ていてください。
数日のうちに例の噂はただのデマだって証明できます。
興味本位でここを訪れる人もいなくなるでしょう」
「ほんとぉにぃ?」
疑いのまなざしを向ける田淵。
そんなに信用できないかな……。
「おーい! 田淵さん! こっちこっち!」
老人たちが手招きして田淵を呼んでいる。
出店の運営を終わりにして酒盛りを始めていた。
子供たちは一通り遊んで満足したのか、今度は公園の遊具で遊び始めた。
俺は子供たちの写真を撮影する。
遊具で遊ぶ異形の存在。
でもそれは、仮装しただけの子供。
別に怖くもなんともない。
彼らの姿をできるだけ鮮明に写しておかなければ。
「あんたも熱心だなぁ。
なんでそんなに夢中になってるんだ?」
田淵が不思議そうに尋ねてくる。
「別に、ただなんとなく」
俺は簡単にそう答えた。