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7 伝承のようなもの

 俺は再びあの集落へと向かった。


 この前、公園で出会った老人は田淵たぶちと言う。

 彼からまた話を聞くことにしたのだ。


 あれから気になって調べているうちに、例の集落の歴史について興味が湧いた。

 どうやらSNSの噂はもともとあった風習が元ネタになっているらしい。


 いったいどういう経緯で怪談じみたデマが広がったのか。

 原因を確かめたいと思う。


 と言うのも、SNSで例の公園の噂について「なんかデマみいたいですよ~」と軽く呟いたら、「ソースは?」「根拠は?」「証拠は?」とか色々と突っ込まれてしまい、悔しい思いをしたのだ。

 確固たる証拠を突きつけて奴らを黙らせたい。


 幸い、こちらにはすでに集落のことをよく知っている人とのコネがある。

 資料とかをまとめて配信サイトに記事を投稿すれば、それなりに注目を集められるかもしれない。

 やるなら徹底的にやってやろう。


 俺はさっそく田淵さんに連絡を取り、訪問のアポを取り付ける。

 話を聞いてもらえるのが嬉しいのか、ご近所の仲間を集めて待っているという。

 当時の資料もできる範囲で用意してくれるそうだ。


 年寄りってだけで敬遠されるからなぁ。

 ただでさえ相手にされないのに、面倒臭いことばかり言っていたら若者たちも逃げていくだろう。

 きっと田淵も寂しいのだ。


 俺は自転車で集落の集会場へ向かった。

 すでに何人もの年寄りが集まっていて、ちょっとしたイベントのような雰囲気。


「おお! 来たか!」


 田淵は満面の笑みで両手を広げ、俺を迎え入れてくれた。


 上辺だけで喜んでいるそぶりを見せているのではなく、本当に嬉しそうにしている。

 他の老人たちもみんなニコニコ。

 愛想笑いとかではない。


 集会場では食事の用意がされており、昼食を取りながら話を聞くことになった。


 出された料理は……まぁ、うん。

 お年寄りが好みそうなものばかり。

 唐揚げとかの揚げ物はなく、海苔巻きとか、漬物とか、煮物とか。

 味は悪くなかったよ、うん。


 当時の思い出話を聞きながら、いくつか質問をして疑問を解消していく。


 例の風習はいつから始まったのか。

 始まったと思われる時期の状況。

 祭りや公園で仮装して遊んでいた時の雰囲気。


 老人たちは口々に話し始める。


 例の風習が始まったのは明治末期。

 ハッキリと記録が残っているのは大正の頃から。

 写真はほぼ最近のものしかない。


 最近と言っても戦後直後とか、かなり昔。

 色々と見せてもらったが、どれもモノクロの物ばかりだった。


 風習の始まりは、コレラやインフルエンザなどに苦しんだ当時の時代背景が反映されている。

 どうやら仮装することで人外の者になり、人間の病にかからないようにする意図があったようだ。


 んなことしても普通に感染すると思うが、当時はそれなりに効果があると考えられていた。この風習は前の大戦を経ても途絶えることはなく、戦後も続くことになる。


 田淵をはじめ戦後にこの風習を受け継いだ世代は、面白がって普段から仮装道具を使って遊んでいた。

 大人はそんな子供たちを咎めることもなく、好きにさせていたそうだ。

 すでに疫病対策の効果は無いとの理解が広がっていたのだろう。


 例の古い集落には数家族が住んでいて、まだ人が住んでいるこちら側の集落の住人たちとも仲良くやっていた。

 公園は二つの集落の住人が共同で管理し、子どもたちは毎日のようにそこで遊んでいた。


 だが……時代が進むにつれ人口の流出が続き、次第に山の向こう側にある集落からは人がいなくなった。

 特に事件があったわけではなく、単に不便だったのが理由らしい。


 買い物をするにも、出かけるにしても、あの細長いトンネルを通らなければならない。けっこう距離があるし、暗いし狭いし、かなり手間に感じたそうだ。

 野生動物が農作物を食い荒らすなどの被害も多かったという。


 次第に住人たちはこちら側へ移住するようになり、最後まで残っていた一人身の老人が施設に入所してからは完全に無人化。

 残された公園だけは整備が続けられたが、廃屋はそのまま放置されて荒れ放題に。

 わずかに残る子供たちのためを思って残した公園だったが、よからぬ輩を呼び寄せる結果となってしまった。


「思い出の詰まった公園が荒らされるのは、

 さぞお辛いでしょうね……」


 話を聞き終わってそう言うと、老人たちは一斉に頷く。


「最近の若い者は……なんて言いたくないけど。

 最近のは本当に異常だよ。

 昔はこんなことはなかった。

 少なくとも平成までは……」

「ああ、令和になってから急におかしくなった!」

「そうだそうだ!」


 口々に愚痴をこぼす老人たち。


 いくら何でも年号が変わったくらいで、急に若者たちがおかしくなったりはしない。

 何か他に理由があるか、老人たちの勘違いか、どちらかだ。


「なぁ……どうすればいいんだ?

 なにかいい考えはないか?」


 弱った表情で田淵が尋ねてきた。

 俺に聞いたところで解決策を導き出せるはずもない。


 しかし――


「お礼なら……なぁ。なんとかしてくれたら……」

「え? お礼?」

「まぁ、これくらいは」


 そう言って両手をパーにして俺に見せる田淵。

 え? 10万円?


「これは手付金みたいなものだから。

 受け取っておいてくれ」


 そう言って茶封筒を差し出す田淵。

 中を改めると一万円札が、一枚、二枚、三枚……。


 現金を積まれると弱い。

 それに、弱った老人を見捨てられるほど非情ではないのだ。


「分かりました、なんとかしましょう」

「本当か?! でも……どうするんだ?」

「それはですね――」

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