6 人の顔のようなもの
俺はPCに向かって作業を続けている。
モニタとにらめっこしていると、前に勤めていた職場の先輩から電話がかかって来た。
『おっす、進捗はどうよ』
「ぼちぼちっす」
少し前から先輩に頼まれて資料作成の仕事を始めた。
と言ってもバイトみたいなもので、大した金にもならない。
貯金はまだあるし、当面の生活には困らないが……完全に何もしていない無職の状態もアレかなと思って。
とりあえず仕事っぽいことはしておくべきだと思い、以前の職場の先輩にお願いして仕事をふってもらったのだ。
「そっちはどんな感じっすか?」
『全く状況かわらねーよ。クソ上司マジで殺してやりてぇ』
「本当に殺しちゃったらダメですよー」
『分かってるよ、んもぅ』
職場を離れてからも先輩とは連絡を取り続けていた。
けっこう仲が良かったのでよく遊びに行ってたし、こうして仕事までくれる。
上司はクソだったけど、割と過ごしやすい職場だったなぁ。
給料もそこそこ良かったし。
……もったいないことをした。
「そう言えば……彼女はどうなりました?」
『お前が辞めてたすぐ後に辞表を出してそのまま。
今は全く連絡がつかないってよ』
「そうですか」
『そうですか、じゃねーよ。
誰がしりぬぐいしたと思ってんだ?
テメーが受け持ってた仕事、
全部こっちに回って来たんだぞ』
「ははっ、申し訳ないっス」
軽く返事をすると、受信機の向こう側からわざとらしく大きなため息が聞こえてきた。
この様子だと怒ってるなぁ。
「すみません、調子乗りました。
追加料金なしで仕事請け負うんで。
それで勘弁してください」
『別にいい、気にしてない。
けどよぉ……彼女がどうなったのか。
少しくらい興味持てよ』
「っすねぇ……」
『お前、あの子にあれだけのことしといて。
その反応は流石に冷たいんじゃないか?』
「かもしれねぇッス」
うっとうしい。
放っておいてくれ。
俺は忘れたいんだ。
通話を切断してスマホを放り投げ、大きく欠伸をして天井を仰ぎ見る。
人の顔のように見える木目をぼんやりと眺めていると、彼女の顔が浮かんだ。
頭を振って浮かんできたヴィジョンを打ち消す。
だから早く忘れたいんだって……。