4 第一村人発見のようなシーン
一瞬のまぶしさの後に、むわっと香る草の匂い。
そこには別世界が広がっていた。
放置された廃墟が立ち並び、膝丈ほど伸びた雑草が地面を埋め尽くしていた。
少し離れた場所には竹藪。
村を取り囲むように生い茂っており、その先は何も見えない。
ここが例の廃村か。
ひと気がないし、生活感も皆無。
何か出そうな雰囲気だ。
俺としては幽霊よりも野生動物と遭遇する方が怖いと思った。
ぶっちゃけ、幽霊なんかよりもイノシシの方がずっと危険だからな。
用心しないと……。
自転車から降りて押しながらゆっくりと進んでいく。
やはり目につくのは窓も扉も固く閉ざされた廃墟ばかり。
動きそうにない古い自動車や、放置されてボロボロになった自転車は見かけるが、人が使ってそうな乗り物は見当たらなかった。
トンネルを隔てて先ほどの集落と繋がっているが、こちら側だけ廃れている。もしかしたら昔は一つの村だったのかもしれない。
いったいどんな理由で廃村になっちゃったのかな。
何か事件でも起きたのだろうか?
あっ……!
廃墟と廃墟の間を抜けると、お目当ての公園が見つかった。
ここだけ草が刈り取られており、遊具も使えるように整備されている。
誰か来てるのか……なんで?
俺は公園にあるものを一通り確認する。
滑り台に鉄棒、シーソー。
今はあまり見なくなった回転遊具。
一応どれも動くようで、今でも使える。
こんなところで遊ぶ子供がいるのだろうか?
「おい、そこで何をしている?」
不意に声をかけられ振り返ると、やせ細った作業着姿の老人が怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
「えっと……その……」
「もしかしてアンタも興味本位で遊びに来た口か?
その、“えすえぬえす”とか言うのを見て」
「あっ、はい。そうです」
普通に会話ができる。
どうやら幽霊とかではなく生きた人間のようだ。
「はぁ。困るんだよなぁ。
ここはただの公園だよ。
幽霊も妖怪もいない。
お前みたいなのが来て迷惑してるんだ。
ほら、これを見てくれよ」
老人はそう言って透明なビニール袋を差し出す。
その中には空き缶やら、空き箱やら、ごみがたくさん入っていた。
「もしかして……」
「ああ、遊びに来たクソガキが捨てたものだ。
誰が掃除してると思ってるんだよ、ほんと」
うんざりした表情を浮かべて、わざとらしくため息をつく老人。
なぜか申し訳ない気持ちになる。
「……ごめんなさい」
「いや、アンタが悪いわけじゃないんだ。
変な噂がたって迷惑してるってだけの話だよ」
「良かったら手伝いますけど……」
「大丈夫、今日の仕事は終わったから」
「そうですか……」
この老人は定期的にここへ来て、清掃活動をしているようだ。
公園の整備を行っているのもこの人かもしれない。
「あの……ここって……」
「ただの集落だった場所だよ。
昔はにぎやかだった。
けど今はもう誰も住んでない。
あのトンネル、大型車は通れないから、
新しく建物も立てられないんだ」
確かにさっき通ったトンネルの幅はあまり広くなかった。
天井も低かったので、大型のトラックは通れない。
廃墟は全て木造の物ばかり。
昔は木材を地道に運んで家を建てていたのだろう。
「見ての通り、ここは完全に孤立した場所だ。
変な噂が立つのも無理はないけどよ」
「あの……実は……」
俺はネットで聞いた噂について話してみることにした。
「人間のような……もの?
それがここで遊んでるってのか?」
「はい、ネットではそう言われてましたね」
「ふぅむ……」
老人は少し考えこんだように俯く。
そして――
「よし、ちょっとついてこい」
「え?」
「面白い話を聞かせてやるよ」
老人はやけに真面目そうな顔をしながら言った。