カボチャのチャチャチャ
10月末はハロウィンですね。
元々は古代ケルトでご先祖様の霊をお迎えするもので、日本のお盆と似ています。
先祖の霊と一緒に悪霊もくることもあるため、子供が身を守るためにお化けの仮装をするようになったようです。
そしてカボチャのオバケも有名ですね。正式名称はジャック・オー・ランタン。
このお化けカボチャはどのようにして生まれたのでしょうか。
既出の小説の人物が登場しますが、独立したお話です。
むかしむかし あるところに カボチャばたけが ありました。
おおきく そだった たくさんの カボチャが ありました。
いちばん おおきい カボチャが いいました。
「ぼくは たべられたくない ぼくはたびにでるんだ」
それをきいた きょうだいの カボチャたちは いいました。
「そうなの? ぼくたちは たべてもらうために おいしく うまれたんだよ」
おおきなカボチャは いいました。
「ぼくはイヤだ。ここをでていくよ。みんな さよならー」
そういって おおきなカボチャは たちあがって あるきだしました。
きょうだいたちは「げんきでねー」と みおくりました。
おおきなカボチャは たびにでました。
とちゅうで にんげんや ほかのどうぶつに たべられそうに なりました。
カボチャは なんとかにげました。
あるとき キツネに だまされそうになって つかまりかけました。
あわてて にげようとしたところで じめんのあなに おちました。
どこまでも ふかくふかく おりてゆきました
ついたところは くらくて ひろいところでした。
すこし はなれたところで ぼやっとした あかりがみえました。
あかりのほうにいくと ひかっているいしが たくさん おちていました。
カボチャは ひかるいしを ひとつ くちにいれました。
するとカボチャの めとくちが ぼやっと ひかりました。
まるでランタンのように あたりを てらしています。
それからしばらく あるいていると すわっているひとが いました。
カボチャは そのひとに こえをかけました。
「こんにちは」
「やあ、こんにちは。カボチャのランタンくん」
「こんなところで なにをしているの?」
「あかりがなくて うごけなかったんだ。よかったら いっしょにいくかい? ぼくはジャックっていうんだ」
「うんいいよ。いっしょにいこう」
ジャックとカボチャは いっしょに たびにでました。
ふたりはずっと たびをつづけました。
まいとし ハロウィンのときには カボチャは ちじょうに でてきました。
いろいろなおうちのパーティーで おかしを もらいました。
カボチャは そのおかしを ジャックにわけてあげています。
そのカボチャは ジャック・オー・ランタン とよばれるように なりました。
* * *
「偉文くん。この話って悪魔がでてくると思うんだよ」
小学生の暦ちゃんが僕にきいた。
安アパートで独り暮らしをしている僕の部屋に、小学生の従妹二人が遊びに来ている。
彼女たちは僕が描いた絵本の案をみているところだ。
「暦ちゃんの言う通り、本来のジャック・オー・ランタンの伝承では悪魔が出てくるよ。この絵本は小さい子ども向けだから省略したんだ」
「ねぇねぇ、悪魔がでる話ってどういう感じなの?」
暦ちゃんの姉の胡桃ちゃんが聞いてきた。
「えーと、たしか……」
* * *
ジャックというずる賢い男がいました。
彼は悪魔に魂を渡す約束で、金貨の袋をもらいました。
魂を取りに来た悪魔をだまして、十字架を使って動けなくさせました。
解放する代わりに、魂をとらないと約束させました。
* * *
「ははは……。悪魔よりもジャックさんの方が悪者だね」
胡桃ちゃんは笑った。
「で、年月が過ぎてジャックは年を取って死ぬんだ。冥界で若い姿になって、天国への階段の前に来るんだけど、天使に断られるんだ。悪いことをしたから天国には行けないって」
「あ、そうなったんだ。それでジャックさんはどうなるの?」
「ジャックは地獄に行こうとしたんだけど、悪魔が魂を取らない約束をしていたからそっちにも行けないだ。ジャックはカボチャのランタンを持って、ずっと冥界をさまよっているんだよ」
「へぇ、それでさっきの絵本につながるのか」
胡桃ちゃんは納得したようにうなづいていた。
暦ちゃんは、挿絵のカボチャを指さした。
「偉文くん。ジャック・オー・ランタンって、もともとはカボチャじゃなくて、カブだったってきいたんだよ。前にやった『大きなカブ』の話につなげてもよかったと思うんだよ」
「今はカボチャの方が有名だからカボチャのままの方がいいよ。アメリカではハロウィンが普及する前から、パーティーの時にくりぬいたカボチャのランタンが使わていたみたいなんだ。アメリカで、それとジャック・オー・ランタンが合わさったみたいだね」
そのとき胡桃ちゃんが「そう言えば……」と手を合わせた。
「カボチャの実って、畑で転がって生えてるんだよね。友達の家に植木鉢の小さい木があって、枝にオレンジ色のカボチャがいっぱい下がっていたの」
「それはたぶんカボチャに似た別の植物で、ソラナムパンプキンだと思うよ。トマトぐらいの大きさのカボチャに似た実がつくんだ。ハロウィンパーティーでは植木鉢ごと飾られることもあるね」
その時、絵本を見ていた暦ちゃんが僕の方を向いた。
「ソラナムパンプキンの方が枝が太いんだよ。このお話を人形劇でやるときは、カボチャじゃなくて、ソラナムパンプキンを使えばいいかも。本物も借りられるかもしれないんだよ」
「いや、ソラナムパンプキンは観賞用だから食べられないと思うよ。それにランタンにするには小さすぎると思う」
「ふうん。食べられないのか。そういえば、おやつはまだ?」
「あぁ、そうだ。おやつを作ってあげる約束をしてたよね。今からポップコーンを作るんだ。いっしょにやってみる?」
「もちろん手伝うんだよ」
「あたしもやる!」
暦ちゃんも胡桃ちゃんも手伝ってくれるようだ。
僕たちは調理場に移動した。
小さいお鍋とポップコーン用のトウモロコシの実が入った袋を出した。
暦ちゃんが袋の封を開けて、お鍋にパラパラと全部入れた。
僕は胡桃ちゃんにサラダ油の容器を渡す。
「胡桃ちゃん。油はトウモロコシが半分くらい浸るぐらい、たっぷり入れてね」
「うん。結構入れるんだね」
胡桃ちゃんはトポトポとお鍋に油を入れた。
「ねぇねえ、偉文くん。このトウモロコシ、すごく固そうだよね。普通のトウモロコシと違うの?」
「そうだね。この固い皮があるからポップコーンが作れるのさ。これを火にかけると実の中の水分が膨らもうとする。でも皮が固いから、なかなか膨らまない。だんだん圧力が高くなって、皮が耐えきれなくて破裂するんだ。水蒸気爆発という現象が起きて、一気に膨らむんだよ」
「そうなんだ。じゃあ普通のトウモロコシではポップコーンは作れないんだね」
「そうそう。お米のお菓子でポン菓子っていうのがあるよね。あれも圧力鍋みたいなもので加熱して、いっきに解放して作っているんだ。昔は公園のイベントで作ることもあったらしいよ。ものすごい爆発音がするみたいだから、今やるのは難しそうだけどね」
僕はお鍋にフタをして火にかけた。強火にして、お鍋をゆすった。
ここからは子供たちにやらせるのは危ない。
強火で短時間でやるのがコツだ。
中火や弱火だとなかなか破裂せずに、お鍋の底にくっついたり焦げたりする。
それに短時間に仕上げないと、全部がポップコーンになる前に焦げる。
ポン……ポポポン……ポポン……
「あ、できてきた……」
火から少し離してお鍋をゆすり、また火にかけてゆする。
「鍋の中身を見てみたいんだよ」
「今止めると食べられない実が残るから、できるまで待ってね」
ポンポンいう音がやんだところで、火からおろす。
フタをあけるとたっぷりのポップコーンが入っている。
粒を残さずにうまくできたようだ。
大皿に鍋の三分の一程度のポップコーンを入れた。
「じゃあ、胡桃ちゃん、暦ちゃん。軽く塩を振って、先に食べてて。こっちは別の物を作るから」
「偉文くん。それで何を作るの?」
胡桃ちゃんが首を傾げた。
「ハロウィンっぽいお菓子を作るよ。よかったらここで見てるといいよ」
僕はフライパンを火にかけてバターを溶かし、マシュマロを放り込んだ。
マシュマロが溶けてキャラメル色になったところで、ポップコーンを投入。
ポップコーン全体に溶けたマシュマロがからまったところで、火を止める。
大きい平皿にポップコーンを半分をいれた。
菜箸でポップコーン同士がつかないように離れて置くようにする。
でないとくっついてしまう。
「キャラメルポップコーンのできあがり。これは熱いから気を付けてね。冷めたら塩味のやつと食べ比べるといいよ」
「ねぇねぇ、そっちに残っているのはお代わり用?」
胡桃ちゃんが塩味ポップコーンを食べながらきいてきた。
「いやいや、ハロウィンッぽいのをこれから作るんだよ」
フライパンに残ったポップコーンを別の皿に移した。
オタマでポップコーン同士をくっつけて、何個かの塊に分ける。
手を水で濡らして、おにぎりのように軽く固める。
少し熱いけどガマンガマン。
「ポップコ-ンボールの出来上がり~。これがハロウィン用のお菓子だよ。少し冷ましてから食べようね」
「「いただきまーす」」
二人はおいしいと言いながらキャラメルポップコーンとポップコ-ンボールをたべていた。
僕も出来立てのお菓子を食べてみる。ふむ。ちゃんとできてるな。
ふと、暦ちゃんと目があった。暦ちゃんはニコッと笑った。
「お菓子をくれてもイタズラするんだよー」
はいはい。君はいつも通りだね。