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異世界最後にして最強のメイド

「囮として敵を引きつけるのが、わたしたちの役目だが、この位置はまずい。虫の集団のど真ん中に入りこんでしまっている。もう少し、虫たちが先に進んでからのほうがいいよ」


だが、わたしが言い終えて扉を閉めようとした直後、リーリーンが「いたっ!」と大声で叫んだ。声は廊下を反響して伝わっていく。


見れば、扉の蝶番に彼女の獣耳の端の毛が挟まっている。


「ご、ごめんなさい!」と、彼女。


わたしは慌てて扉を開き、彼女の毛を解放したがとき既に遅し、廊下の角から先程の虫がものすごい勢いで迫ってきた。


虫の〝筒〟の先端が真っ赤に光る。


その後ろから、さらに三匹の新手が現れるのが見えた。


「馬鹿野郎!」モモアーが槍を構える。


わたしは躊躇せずレールガンを撃った。


超高速の弾丸が廊下を爆進し、廊下そのものを破壊しつつ、虫たちを粉々に吹き飛ばした。


モモアーもリーリーンも目を丸くしている。


わたしはいった。

「こうなったら、派手に行こう」


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


わたしは二人を引き連れて、全力で都市を駆け抜け、レールガンを撃ちまくった。


意図していた通り、すさまじい数の虫がわたしたちに迫り、そのかなりをわたしは団地ごと破壊した。レールガンの一撃は棟棟に大穴をあけ、ときには倒壊させた。虫たちは残骸に飲み込まれ、じたばたもがきながら粉塵の中に消えていった。


気がつけば、わたしたちは完璧に再建され、機能している団地群の奥深くに入り込んでいた。


周囲には、ギリシャ風の円柱が何百本と立ち並び、天井は驚くほど高い。三十メートルから四十メートルはあるだろう。天井の建材そのものが発光しているらしく、柔らかな光が降り注いでいる。床面は鏡のように磨き上げられ、曇りひとつない。


「なんだよ、ここは」モモアーが怯えの混ざった声でいった。「めちゃくちゃ深くまで降りてきたはずだろ。なんで、こんなに明るいんだ?」


「どうやら、ここは団地の〝土台〟のなからしいな。それとも、この土台こそが団地の本体なのか。どっちにしても、完璧に復旧されてる。もし、団地の美しさが掃除機械の強さを表すんだとするなら、とんでもない奴らがいるぞ」


わたしはレールガンの遊底を確認した。

視界の端に残弾数が表示される。

セバスチャンがいなくとも、わたしの脳は電子的能力を発揮できるらしい。

残弾は残り四発。


心許ない数字だ。


この弾数で二人とともに虫たちの勢力圏外に逃げ延びねばならない。


リーリーンは完全に息が切れているし、モモアーも強がってはいるが相当に疲労している。


そのモモアーの耳がぴくりと動いた。


「誰かいるぞ!」


リーリーンが円柱の列の向こうにレーザー銃を向けた。


そこには、人間の女性が一人立っていた。


わたしは目を瞬いた。


こんなところに人間がいることもさることながら、彼女の服装があまりにも場違いだったからだ。


黒いロングスカートに黒いストッキング、少しだけ踵のある靴、真っ白でひらひらしたエプロン、頭には白いカチューシャ。


これはーーメイドだ。


わけがわからない。


ここはわたしが生きていた時代から遥か未来のはずだ。


なぜ、メイドがいるのか。


リーリーンがいった。

「ドイタシマシテ、あの人、耳が小さいよ。ひょっとひてドイタシマシテの同族?」


「わからない」わたしは小声で答える。


メイドが、わたしたちにも聞こえるほど大きなため息をついた。

「言語からして、カルニシン系の汚染人類かしら。汚染、汚染、汚染、汚染、もう嫌になってしまうわ」

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