亜人種殺戮機械
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モモアーたち見張り役の男衆は、ベランダから身体を乗り出して、遠くを見つめていた。
そこに、わたし、リーリーン、長老が加わる。
モモアーたちの視線を追うと、彼方にある団地群の谷間の暗がりのなかで、何かの光が激しく点滅していた。
リーリーンがいった。
「なんだろう、あれ」
「分からねえ」モモアーはそういいながら、横目でわたしを見て顔を顰めた。「悪魔さんはどうだい?」
「いや、この距離では、わたしでも見えないよ」
〝なら、ワタクシが見てみましょう〟
セバスチャンはそういうと、すうっと私の肩の上に乗った。
わたしの視野の一部にウインドウが出現し、そこに彼が見ている光景が映し出される。
赤と黒の世界の中、ネネと思しき手足の長い人影の群が、空中回廊を必死に逃げている。
彼らを追っているのは、ナナフシのような機械虫たちだ。胴体は棒状で、直径は三十センチ、長さは一メートルくらい。六本の手足が突き出しており、ゴキブリのように動きながら、時折、棒の先端からレーザーのようなビームを吐き出している。かなりの高熱らしく、ビームを打つ瞬間、胴体の赤みが増し、尻からも赤い排熱を吹き出していた。
セバスチャンがいう。
〝プラズマ銃ですね。ガス燃料を主体に超高熱化して射出しています。これこそ、旦那様の時代のSF映画で見られたレーザー銃そのものです。『スターウォーズ』や『ブレードランナー』のブラスターですよ。弾体がプラズマ状態のため、命中精度は極めて悪く、また、射程も短いのですが、エネルギー効率がよいため、弾をばら撒きたいときに向いています〟
なるほど、機械虫たちの連射で、ネネたちは次々に撃ち落とされている。とんでもない密度の弾幕だ。
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わたしが目で見たものを説明すると、リーリーン以外の二人は懐疑的な目線を向けてきた。
長老がいう。
「ドイタシマシテ様、あなたを疑うわけではないのですが、ネネを狩る者がいるとは想像もつかないのですが」
モモアーが頷く。
「じいさまのいう通りだ。ネネは見えないんだぞ? 見えない相手に勝てる奴などいない」
「いや、それがわたしには見えるんだ」
リーリーンが頷いた。
「ほんとだよ。ドイタシマシテ様は、ネネをやっつけたんだ!」
「まさか」と、モモアー。
「わたしたち人間にそっくりな怪物だったよ。手足がすごく長くて、お腹には袋があるんだ。そこに捕まえた女の人を入れるんだよ。意識があるときは透明で、気絶したら黒色の肌が出てくるんだ」
わたしは頷いた。
「驚くほど強靭な生物だったな。ナイフが背中に深々と突き刺さり、レーザーの穴がいくつも空いたのに、平然と逃げ去った」
長老がもう一度、点滅する光を見た。
「その強いネネが追われているのですね」
「そうです。あの虫型の機械たちは、セバスチャンと同じように可視光線以外の手段で対象を認識できるんでしょう」
「カシコウセン?はあ?」と、モモアー。
長老が不安げにいう。
「このところ、ネネが現れる頻度が高くなっていましたが、その虫たちに住処を追われてきたのでしょうか」
「そこまではなんとも。ただ、いまみえているあの何百人というネネは、こちらの方向に向かってますね」




