両性具有体
セバスチャンがいう。
〝ワタクシ、ドキュメンタリー映画で観たことがあります。動物の群れでは同性同士がカップルとなることも珍しくないのです。主に力の弱い雄同士で見られる現象ですが、動物園など閉鎖的な空間では雌同士でも見られるとか〟
わたしはリーリーンの祖父、集落の長老にいった。
「しかし、それでは、その、リーリーンさんはどうやって子供をもうけるのですか?」
長老は微笑んだ。
「子が欲しければ、男連中から種をもらえば済むことです」
「じいちゃん!」リーリーンが、わりと強めに長老の肩をこづいた。「もう、やめてよ。ドイタシマシテ様が迷惑してるじゃないか。ボクみたいなのを、ドイタシマシテ様みたいに美しい人が欲しがるわけないでしょ」
「いや、君は十分に可愛いさ」
じっさいのところ、彼女は、わたしのいた過去世界ならば一流アイドルで通用するだろう。
「え?」
リーリーンが嬉しそうな顔になった。
「いや、違う違う。そういう意味ではないんだ。だいいち、夫婦になるのに、種を別の男からもらうだなんて、わたしには受け入れづらい」
ここで、いきなりセバスチャンが、足元の蜘蛛から〝実音声〟を出した。
「旦那様。旦那様は男女問わずに生殖可能ですよ」
「うわっ!」リーリーンが小さく叫び、長老も後ろによろめいた。
「この機械は話せるのですか」と、長老。
「わたしも、いまはじめて知ったよ」
「ご容赦ください。旦那様の将来にとって、たいへん重要なお話と思われましたため、口出しさせていただきました。旦那様の肉体は〝完璧〟です。男性、女性、いずれとも生殖可能ですし、緊急時には単為生殖もできるようになっております」
「そんな無茶な。どうやって女性と子作りするというんだ。わたしには、その、アレがないんだぞ」
「旦那様の肉体は、卵巣、子宮、膣のほか、尿道の近くに精巣がございます。男性的な肉体的興奮が頂点を迎えると、射精いたします。精子の運動量が三十センチ近くありますので、相手女性の膣内に放出せずとも妊娠可能となっております」
つまり相手の股間にかければ、精子が鮭の遡上よろしく子宮まで登っていく?
「メチャクチャだな。きみはわたしが最後の人間といったが、本当に人間の範疇なのか?」
セバスチャンがたくさんの脚を振り上げた。
「もちろん人間です! 旦那様は完璧にして究極の人類なのです!」
長老とリーリーンは完全に引いてしまっている。
わたしは脳内でいった。
〝君の、この肉体に対する自信はわかったが、もっと別のタイミングで伝えることはできなかったのか?〟
〝いまが最適のタイミングと判断させていただきました。ご自身の身体に自己生殖能力があるのいうのは、旦那様の時代の人類にはショックなことでしょうから。しかし、リーリーンさんを連れ合いにできるなら相殺されるでしょう? この方は、旦那様の時代の美的感覚からすれば、たいへんな美形ですから。旦那様自身に負けておりません〟
長老が恐る恐るといったふうに手を挙げた。
「その、少々驚くべき話ではありましたな。さすがは塔のお人ですな。しかし、つまるところ、ドイタシマシテ様はリーリーンとの間に子を成せるということですかな? なら、連れ合いとしていただくのに問題はないわけでは?」




