建機山脈
ダイソン球は、恒星の周囲を人工の大地で覆いつくし、その全エネルギーを利用すると同時に、広大な居住空間を得るものだ。
一般に、その内壁面積は、地球の地表面積の10億倍、500京人を養うことができるとされている。
わたしは自分の目で見ているものが信じられなかった。
遥か彼方で聳り立つ大地には、白いまだら模様が付いている。おそらく、あの白いものは雲だろう。緑色はアマゾンの数億倍の規模の大密林だろうし、黄色の領域は前人未到の大砂漠。そして、あの青い海、地球が丸ごと何十個も入ってしまうに違いない。
黒い領域はなんだ?
ところどころ、虫にでも食われたかのような暗い穴が大地に空いている。
わたしは少し考えて、じっさいに穴なのだと思い当たった。
このダイソン球は建造途中なのだ。黒いところは、地殻が存在せず、外宇宙がそのまま見えているのだ。
空気はどうして出ていかないのだろう。穴の淵に巨大な壁でもあるのか。それとも、わたしの想像もつかないテクノロジーか。
いずれにせよ、こんな途方もないものを作るには、百年や千年では到底足りない。
ワープ航法が開発されていれば別だが、そうでなければ、周囲の恒星系から建材を集めるだけでも、何万年、いや、何十万年も必要になる。
しかし、なんと馬鹿げたものを作ったのか。居住空間が必要なら、個々の恒星系に植民したほうが、よほど安上がりだ。
それに、このダイソン球は少しおかしい。
建造途中とはいえ、〝完全な球体〟を目指しているように見える。
居住空間と太陽のエネルギーの利用という観点で見れば、巨大な板状の大地を恒星の周囲に浮かべるだけで事足りる。球にすると、自転軸の両端が無重力になってしまうではないか。
わたしの物思いは、下方から聞こえてきた破壊音に断たれた。
見れば、十キロほど先の団地群が崩れ、巨大な塵雲が湧き上がっている。
わたしは自分の目を擦った。
しかし、この肉体の視力は元の六十七歳の肉体とは比べ物にならない。団地に取り付いている〝怪物〟の姿をしっかりと捉えていた。
山脈のようなサイズの「建機」が団地を呑み込んでいる。