終末世界の脅威
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食糧と衣服の問題は、概ね目処が立った。
しかし、快適な生活のためにはまだまだやることが山積みだ。
布団、枕、歯ブラシ、爪切り、時計、タオル、スリッパ、紙、ペン、洗濯板、ほうき、ちりとり、どんどん作らねばならない。
この肉体は女性だから、いずれ生理用品も必要になるかもしれない。
食材の保管方法も考える必要がある。
いまのところ、ディスポーザーを通してセバスチャンの再利用システムに回す以外に保管する術がない。しかし、ディスポーザーは口径が小さく、今後、大量の植物をいちいち突っ込んで行くとなると、あまりに手間だ。
トイレの便座に座りながら、セバスチャンにそのことを話すと、彼女は〝投入口を大きくすることは可能です。しかし、そのためには十分な素材とエネルギーが必要になります〟といった。
「十分って、どのくらいだい?」
わたしの視野に、鉄、アルミニウム、プラスチック、クロム、ニッケル、エネルギーなどと書かれた何本もの棒グラフが出現した。それらのグラフの頂点よりさらに上に、横向きに赤いラインが引いてある。
〝すべての素材の備蓄がラインを越えれば、です〟
「エネルギー?」
〝構築機を動かすにもエネルギーが必要ですから。枯木などが十分あれば熱エネルギーを取り出せますが、やはりガス燃料や蓄電池があると嬉しいですね〟
「とにかく、何でもかんでも大量に集めなければいけないってことか」
〝次の狩りでは中型の自動機械を狙ってください。効率よく必要な資源を手にできますから〟
わたしは水で尻を洗いながらいう。
「わざわざ狩りをしなくても、下の格納庫にすごい兵器が並んでるじゃないか。一つを拝借できないのかい?たくさん素材を取れると思うけど」
〝絶対にダメです。ただでさえ、塔の維持のためにこれまでに何機も犠牲にしてきたんです。これ以上減らすと、万一のとき、あなたの身の安全を保障できません〟
「前もそんなことをいっていたが、あんな多脚戦車やヘリが必要になるほどの敵がいるのかい? 建機はここに近寄らないんだろう?」
〝ワタクシは過去に一度だけ、完全武装の大型ドローンを「自動操縦」モードで外に送り出したことがあります。戦闘能力でいうなら、あなたがいた古代世界の原子力空母並みだったかと思います。分割したワタクシの一部が操り、〝周辺五百キロを探索して戻ってくる〟といって出発しました。そして、二度と帰ってきませんでした。この世界には、少なくとも、あのドローンを撃墜するほどの存在がいるのです〟




