表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/40

異世界漢メシ


⭐︎⭐︎⭐︎


わたしは、また次の部屋に移り、さらに二羽を狩った。簡単すぎる。どうやら鳥たちは銃に対する警戒心がないらしい。


〝ひとまず、これで十分かと〟


セバスチャンの言葉に従ってわたしは塔に戻った。

武器庫でボディアーマーを脱ぐ。股間に入っていた管が抜ける時、例によって薄気味悪い感覚があった。


「このアーマー、洗濯しなくていいのかい?」


〝自己清浄機能がありますので、放っておいて大丈夫です〟


わたしはアーマーをラックにかけると、獲物袋とセラミックナイフを手に非常階段を登って自宅に帰った。


キッチンカウンターに三羽のキジもどきを並べる。


「で、どうする?」


〝どうする、とは?〟


「料理だよ」


〝ワタクシにはできかねます〟


「物質構築機とやらは? 食材を放り込めば焼き鳥になって出てくるんじゃないのかい?」


〝構築できるのは三次元出力データがあるものに限ります。シンクの排水溝がディスポーザーになっていますので、押し込んでいただければ、完全栄養食になら加工可能です〟


「つまり、ほかのものを食べたければ、わたしがやるしかないのか」


〝申し訳ありません。もう少しエネルギーに余裕があればドローンでお手伝いできるのですが〟


「いいさ、妻が身体を壊してからはわたしも料理していたからね。ただ、調味料だけはどうにもならないな。塩、醤油、砂糖、何かないのかい?」


〝塩や砂糖はご用意できます、鳥の一匹を解体してディスポーザーに入れていただければ、その血液中に含まれるナトリウムや糖分を抽出、精製いたします〟


わたしはカウンターそのものをまな板がわりに、さくさくキジをバラした。セラミックナイフの切れ味は半端ではない。骨までも容易にカットする。


鳩の各部位をディスポーザーに落とすと、排水口のなかで刃が鳩を粉々にする音が聞こえた。それから、何か小さな唸りのような音が聞こえた。セバスチャンが分解・加工しているのだろう。


しばらくすると、完全栄養食ことエネルギーバーの入っている白い箱が「チン」と音を立てた。


箱の扉を開けると、狩りに出る前にはなかった白い棒が二本、隅っこに加わっていた。


どうやら、この箱こそが構築機、もしくはどこかに隠された構築機の出力口らしい。


取り出してそれぞれを舐めてみる。


塩と砂糖だ。


「すごい仕組みだな。なあ、たとえばだけど、油も作れたりするかな?」


〝お安い御用です〟


また構築機がチンという。


蓋を開くと黄色みがかった棒があった。


匂いを嗅いでみる。


少し鉄臭いが、まさに鶏油だ。


なんと便利な。鶏油を作るには、本来、鶏皮をじっくり炒める必要があるのに。


わたしは二羽目のキジを捌いた。今度は食べる用なのでさきほどより丁寧に行う。羽をむしり、お尻を切り落とし、腹を開いて臓物を出す。鳥モツは好物だが、醤油や味噌がなくては作るのが難しいので、泣く泣くディスポーザーに放り込む。手元に残った部位を、慎重に手羽元や手羽先、胸肉、もも肉に分解する。


「調味料がまだ足りない。酒は用意できるかい?」


〝難しいですね。塩や砂糖、油は鳥の体内にもとから存在するものですので抽出・精製は容易でしたが、アルコールは出力データが必要になります。一滴でもあれば、構成要素を分析・再生できるのですが〟


「今後の宿題だな。とりあえず、いまある材料でできるものを作るか。ちなみに、君のデータバンクにレシピはあるかな?」


〝申し訳ありませんが、ございません〟


わたしは少し考えて、セバスチャンに羽毛のセルロースからラップフィルムを構築させた。


レシピがないなら、覚えているものを作るしかない。


それから、胸肉から皮をはぎ、油、砂糖、塩の順ですり込む。


あとは肉をラップで巻いて準備完了だ。


使わなかった肉はもったいないが、すべてディスポーザーに放り込んだ。


わたしはラップで巻いた肉をカウンターの隅に置くと、のんびりと風呂に入った。


一時間ほど、うつらうつらと仮眠をとりながらリラックスする。

それから、体を震わせて湯を跳ね飛ばし、肉の元に向かった。


ラップから出して、流水で砂糖と塩を軽く洗い流す。


それから、もう一度ラップでくるみ、湯を沸かした鍋に入れる。いったん沸騰がおさまり、その後、もう一度沸騰したところで火を止め、冷めるのを待つ。


完全に冷めたら取り出してラップを外し、ナイフで薄く切り分ける。


〝これは何なのですか?〟と、セバスチャン。


わたしは微笑んだ。

「鶏ハムだよ。もともとは妻の得意料理だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 鳥はむ
[良い点] とりはむ [一言] ダイソン球からきて鶏ハムへの着地でホッと一息。 孤独だけど、ビジュアルが凄くて今のところ怖くないですね。 そのうち多様性も増えるのかな。 読み進めるごとにワクワクが増え…
[一言] 主人公、野鳥の解体手慣れてるなぁ 羽毛なんかはどうにか加工して衣服にできないものか というかいまだにプライベートは全裸生活か… なんとなく電波少年の企画(なすびの懸賞生活)ぽさを感じる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ