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12時の楽譜  作者: 和繁 ケイ
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始まりの楽譜


死にたい


自分に足りないものを探している。

勉強も運動も、音楽、美術、武術何でもできてしまう、外見も社交性も劣るものがない。


最初のうちに感じていた優越感も薄れて今は毎日が惰性でしかない。


クラスメイトとの付き合いではじめたRPGも昨日終わった。

あんな世界を救うより、今2番目のボスの倒し方が難しくてわかんないよな。なんて会話をして笑っている自分を救ってやりたい。


本当に全員馬鹿だな、馬鹿は皆変わり映えしない。

毎日NPCに話しかけている気分だ、中身がない会話、手間でしかない選択肢、先の見える会話。

現実もあのゲームと変わらない。


馬鹿は馬鹿のプログラムから漏れず生きているから気まぐれに気持ちなんか考えてやってもわかりきった答えにしか行きつかない、毎回毎回しょうもない。


つまらない、生きるのがしょうもない、先がない、全てが遅い。


この世界には、色がない。


「じゃあ、こっちに来なさいよ。」


目の前が光る、淀む、捻じ曲がる。


強い吐き気と眩暈の感覚だけがわかる、何があった、今どうなっている

苦しい、気持ち悪い、暗い。


唐突に目の前に強い光を感じた、不鮮明になっていた自分の身体の輪郭がわかる、思わず先に手を伸ばす。

何かつかんだ、空間から弾き飛ばされ地面にぶつかる。


「死にたいの?」


冷たい女性の声、光でぼやけた視界が徐々に慣れていく。

ダークピンク…握っているのは彼女の三つ編み?

地面につきそうなくらいの…


朦朧とするまま顔をあげる。

逆光でよく見えないが、綺麗な顔立ちをした女性が睨んでいる。

チョーカーから下がる宝石に光が反射する

キラキラ、チカチカ、反射に合わせて目の前も揺らぐ。

吐き気が止まない、三つ編みを離したらまたあそこに戻されるような気がして力がこもる。


苛立った彼女のため息に反応する様に慌てて質問の返事をした。


「死にたく、ないです。」


助けてください、そう言えたかどうかわからないまま意識が薄れていく。

死にたい、朝までそう思っていたのに、

なのに今はこの三つ編みが離せなかった。







暖かい匂いに目が覚める。

ベッドの上、息をしている、生きている。

涙が流れた、感情が昂ぶり嗚咽が漏れる。

「おはようとか言えないの?動物でも寝起きはもう少し可愛いわよ。」

声のする方に勢いよく振り返れば三つ編みの彼女。

魔法使いの様な怪しい暗い色のドレスを着ている、昨日までやっていたゲームにでてきそうな雰囲気だ。

何を話したらいいかわからないでいる俺を見つめながら気だるそうに頬杖をついている。

「起きたんなら…、離してよね。」

彼女が自分の三つ編みを軽く引っ張ると俺の右手がつられる、握りしめたままだった事に気が付き慌てて離す。

謝ろうとするが喉が攣ってうまく声がでず、身振りをだそうとするが慌てているせいかバタバタするだけになる、なんとも情けない。

呆れた様に笑われ部屋の奥へ行く。


しばらくするとシチューのようなものが盛られた皿を持って戻ってきた、暖かい匂いの元はこれだ。

「生きたいんなら食べたら?」

渡されたそれをかき込む様に食べた、口から喉、喉から腹まで流れていく暖かさを感じる。

生きている、今生きていることに安心してまた泣いた。

「あんたの今までの様子…「ギア」もないし、「今」急に湧いてくるあんたみたいなのと言えば、「ウィンディア」しかないんだけど、意味、わかる?」

自分が馬鹿になったかと思うほど意味がわからない、理解しようとしても何も繋がらない。

情けなく首を振ると彼女は大丈夫と頭を撫でた。


「ここはパルティシオン。心と歌でできた世界。君はウィンディア、この世界が崩れそうな時この世界を救う為に吹く神様の祈り。」


今までで一番優しく話すとまた頭を撫でられた。

「本当にきてくれたのね…」

安心したようにひと息つくと思い出したように「あ」と声をあげた。

「あんた…名前は?」

「玖井戸 夜宵…」

「クイドヤヨイ、ね。私はルゼ、希望の魔女。ヤヨイ、あんたを呼ぶ為に私は産まれたのよ。」

呼ぶ為にとはどういう事か、聞こうとした俺の声は突然の破壊音にかき消される、振動で食器を落とす、皿が割れ、スプーンが跳ねる、破片、砂埃、壁が砕かれていく、外にはガラスの甲冑のような生き物が数人、中へ入ろうとしてくる。

「ヤヨイ、見ていてこれがこの世界の「力」よ。」

ルゼはチョーカーに指を当て「ステージオン」と呟く、どこからともなく音楽が流れだし彼女の手に大鎌が形成されていく。

ルゼが歌い出す澄んだ綺麗な声、しかし歌は力強い。少し冷たく寂しい歌詞に同調するように鎌が淡く光る。踊る様に首を刎ねると音楽が止まる。

「ちゃんと見てた?あんたもこれから頑張ってよね」

彼女が指を振ると死体が浮き風通しの良くなった壁から外に放り出された、指揮をするように腕を振れば壊れた壁が直り落として割れた皿も元の形でテーブルに並んだ。

「それは…俺は何を覚えたらいいんだ。」

この世界を救うそれが終われば帰れるかもしれない、目の前の不思議な力を早く覚えすぐにでも…

「残念だけど、多分あんたは分かっても何かを覚えるって事はできないのよね。」


ルゼは、困った様に笑った。



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