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007 狼の群れ ②

 「――これで、どうだ!!」


 中空に掲げた手と声に反応したのか、僕の足元から数本の影が狼の群れへと伸びていく。僕よりも数段速い動きで接近し、いとも容易く蹂躙し始めた。イメージ通り……いや、イメージ通り以上に影は動き回っている。

 その影から逃れようと同じく動き回るが、次々と狼達が根絶やしにされていく。そんな光景を見ていた僕は、ストレス発散にプレイしていたゲームを思い出した。不快感を払拭出来る程の爽快感、というべき感情を抱いた。


 ――汝、顔が笑っておるぞ。敵を倒した事がそんなに嬉しいか?


 「いや、違うよ。確かに倒せた事は嬉しいけど……」


 確かに敵を倒した事は嬉しい。逃走していたとはいえ、数的には不利な状況だったのだから当然だ。だがしかし、それよりも僕は自分にこのような力がある事に喜びを感じていたのだ。


 「僕はもう弱くない。今まではされるがままだったけれど、こうやって攻撃したら勝てるって事が分かった。それを嬉しく思わないなんて有り得ないよ」

 

 ――フッ、なるほど。ならば我が力を授けた甲斐があったものだな。存分にその力を活用するが良い。


 「うん、そうするよ」


 そう答えた僕は、目の前で倒れている狼を見下ろした。嬉々としていた所為か、見下ろしながら笑みを浮かべていた。そして狼の骸を洞窟へ運ぶ為、影の力を使って運べないかとイメージしてみた。

 タンカではないけれど、一人で運ぶには量が多過ぎると思ったからだ。球体を出現させ、それがゆっくりと狼達の死体に下りて行く。それが広がって死体を包んで行き、やがて宙に浮いて浮遊し始めた。


 「このまま運べるかな。とりあえず、あの洞窟にでも運ぼうかな」


 収納が出来ればそれに越した事は無いが、どうやら収納は出来ないようだ。僕の想像力が足らないのか、それともそういう仕様なのかは分からない。だけど、さっきの状況を脱した事は一歩進めたと思って良いだろう。

 僕はそのまま洞窟へ向かい、倒した狼を地面へ落とした。血生臭いのがまだ残っているから、周囲への警戒は解く事は出来ない。けれど、とりあえずの問題は解決したと思って良いはずだ。


 そう思っていたのだが、僕は大事な事を忘れていたのである。


 「……あ」


 ――汝よ、どうしたのだ?


 「どうやって、調理すれば良いんだろう」


 そう。僕はこの世界に来たけれど、何の知識もない言わば素人のようなものだ。日本でもキャンプ経験も無いし、サバイバル生活なんていうアグレッシブな経験もない。素人の中の素人で、ドを付けても足りないような人間だ。

 僕がしてきた生活は、ただ学校が終わったら一人で黙々とゲームをするだけの毎日。料理は一応出来ても、それは料理出来る場所と設備があったからだ。この世界にキッチンという物が無いかもしれないし、ここは森の中だ。勿論、そういう文明の利器という物は存在しない。


 「……もしかして、詰んだ?」


 ――木々から枝を取って、それを燃やせば良いではないか。


 「いや、その方法も道具もないじゃん」


 ――汝の世界では、枝を擦り合わせて摩擦熱で火を起こす方法があるのではないか?それであれば、火を起こす事は不可能ではないだろう?


 「あれって結構な力も必要だったはずだよ。後は根気良くやらなきゃいけないし、僕みたいな素人がやったら怪我するのは間違いないと思うよ」


 火起こす方法も原理は知っているけれど、その経験は一切無い。ライターなんていう道具もないし、それが燃えやすいのかという知識もない。ゲームだったらこれ以上に詰んだ状況は無いだろう。

 

 「他に火を起こす方法は無いかな。僕に火の力は無いのかな?影だけ?」


 ――汝が持つ力は影だけだ。他の力を使う事は出来たとしても、鍛錬は必要だろう。


 「ですよねぇ……うーん、どうしようかな」


 何とも虚しい状況だろうか。食糧があっても調理する道具も無ければ、狼達の死体を捌く技量もない。血抜きは影の力を使って宙吊りにすれば出来るかもしれないけれど、肝心の肉を焼く方法が無いのである。


 「また振り出しかー。あぁ、せっかく倒したのになぁ。これはこれで結構来る物があるなぁ。例えるならクエスト報酬で素材が揃ったと思ったら、まだ足りない物があってそれがかなり面倒な素材だった時みたいな感じ」

 

 ――すまない。汝が何を言っているか分からない。


 「火起こしは知ってるのに、ゲームの事は知らないんだ?」


 ――我が知っているのは、汝がこの世界の者ではないという事だ。多少の事は神から聞いては居るし、違う世界の事を聞いた事はあるのだが……話の長い神でな、半分以上は聞き流していた。


 「そうなんだ」


 声の正体を突き止めようと思っていたが、案外聞けば教えてくれるのだろうか?そう思った僕は、現状の打破は後回しにして空腹感を紛らわせる為に問い掛ける事にした。


 「そういえば、何て呼べば良いのかな?影の使い方を教えて貰ったけど、影さんて呼ぶのは変でしょ?名前とか無いの?」


 ――ふむ、我か?そうだな、固有名が必要なのであれば……我の事は「シャドウ」と呼ぶが良い。


 「……」


 影の力を使うからシャドウって事かな?何だろう、このガッカリ感。まぁ、言わないけれど。


 「じゃあ、君の事はシャドウって呼ぶ事にするね。これからも宜しくね」


 そう告げた地面に腰を下ろし、狼の死体と再び睨めっこをし始めたのである。

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