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006 狼の群れ ①

 「……あー」


 正体の分からない声に従った結果、目の前の狼が跡形もなく消滅させられた。いや、恐らく僕がやったと思うのだが……跡形もなく消滅させるつもりは無かったので、ここまで大袈裟に発動して欲しくなかったというのが本音である。

 それに消滅してしまったのだから、依然として問題は何も解決していないのだ。


 「せ、せっかくの栄養素が……」


 生で食べられるとは思っていないが、それでも無いよりは遥かにマシなのだ。犬肉を食した事は無いが、一部では食べれるという噂も聞いた事がある。それなりに食べられるという話を聞いていたから、焼いたらどんな味になるのかという好奇心をあった。

 それなりに楽しみにしていたという事もあって、僕は目の前で消滅してしまった狼が居た場所で膝から崩れ落ちていた。


 ――そこまで落ち込むとは、せっかく倒したというのに何を気にしているのだ?


 「倒したけれどね!?確かに倒したけれど、僕はお腹が減ってるの!だから小規模の攻撃で良かったのにさ、何で跡形もなく消しちゃうのさ!?何も残ってないよ!!」


 姿も見えない存在に対して、何処に向けて言えば良いのかは分からない為に大声を出す。傍から見れば、空中に向かって声を上げている可笑しな様子だろう。だがしかし、今は頭可笑しいと思われても構わないという状況だ。

 昨日から何も食べてないし、走りっ放しで疲弊してしまっているのだ。何が何でも空腹を満たしたいと思っているのに、訳も分からず力を使った所為でその思いは砕かれてしまった。


 ――そう言うが汝よ、どうやら諦めるのは早計のようだぞ?


 「気休めなら良いから、そんな都合良く行かないから」


 ――汝よ、我が言葉を素直に聞き入れよ。前を見るのだ前を。


 「前?」


 声に従って前を見た瞬間、僕は崩れていた体勢からすぐに立ち上がった。何故なら、目の前には茂みから覗き込むようにこちらの様子を伺っている狼の姿があった。それも一匹だけではない。数だけで言えば、両手両足の指を足したとしても足らないだろう。

 それ程の数を目の当たりにした僕は、さっきまでのテンションが何処かへ吹き飛んだ。いや、これは本当に絶体絶命という言葉がピッタリな状況だ。


 「(っていうか、何でこんなに狼が……あっ、まさか最初の一匹が?)」


 最初に頭の中にまで響いた咆哮を轟かせた狼。それはきっと威嚇なのではなく、獲物を見つけた事を知らせる為の咆哮。つまりは動物間での合図って事で、その獲物っていうのが僕って事になる。

 僕はどうやら、まんまとこの場に誘われたと思った方が良さそうだ。


 「(もう囲まれてるし、完全に狙われてるよなぁ。逃がしてくれなさそう)」


 もし逃げたとしても、逃げ切れる保証は無い。囲まれている事もあって、逃げる事自体も困難だというのは一目瞭然だ。


 ――我が力、再び行使する時が来たみたいだな。


 「今度こそ、まともな使い方を教えてくれませんかね?」


 ――仕方ない。少々面倒だが、我が汝を導くとしよう。光栄に思うが良い。


 かなり上から目線な気がするけれど、文句を言っている暇は無い。まぁ文句は後で言うって事で、今はこの状況を何とかするのを優先すべきだ。


 『ワオォォォォォォォォォォンッッッ!!!!』

 「また仲間を増やしてたりしないよね?とりあえず、ここから逃げないと」


 ――汝よ、頭を使う事は得意か?


 「普通じゃないかな?」

 

 ――普通という分類がどれ程か解り兼ねるが、まぁ良いだろう。


 「今度は消滅させないでよ?貴重な食糧になるかもしれないんだから」


 走りながらそう言うが、連日走りっ放しの所為で体力の消耗が激しい。消耗が引き継がれている時点で、かなり僕が不利だという事は何ら変わらない。しかし、今なら僕にあるらしい力を使ってどうにか出来るはずだ。

 

 ――まず大事なのはイメージだ。想像する事は得意か?


 「ある程度はって感じかな?ゲームとか漫画の影響で、妄想は得意だけど」


 ――ならば問題は無い。妄想が得意なのであれば、力の制御はすぐに慣れるはずだ。問題は力の発動と扱いのようだ。


 「発動と扱い?」


 ――言葉通りだ。汝が力を発動する条件、そしてその扱い方を理解する必要がある。


 僕の力の発動には条件があって、その使い方にも理解が必要だという事だろう。だがしかし、過去にゲームや漫画で日常を過ごして来たのだ。妄想力に関して、自慢じゃないがそこら辺の人達には負ける気はしない。

 

 ――汝の力は『影の力』だ。我が力を継ぐ汝であれば、問題なく扱えると信じているぞ。


 「影の力?影って、僕が思ってる影で良いのかな?」


 答えは返って来なかったけれど、沈黙は肯定って事だろう。とりあえず僕の力が影で、さっきの球体も全ては影で生成された物だったという事。だとするならば、影は付近の物体の影も利用出来る可能性もある。

 そう考えると、僕の足元にある影も扱えるだろう。そう予想しながら、僕は狼の群れから距離を取らずに振り返った。応戦するつもりは無かったが、出来るという仮定を押し切った方が面白い。可能性があるのなら、不可能ではないと思い込めば良いだけだ。


 ――汝よ、どうするつもりだ?


 「僕の妄想力、舐めないで欲しいな!!」


 僕はそう言い放ちながら、迫り来る狼の群れに向かって手を掲げた。丁度手の平が群れに向くように掲げ、ゆっくりと目を閉じてイメージを浮かべた。

 イメージは影で狼の群れを斬る、または捕縛するイメージ。何本もの影が足や胴体を縛って拘束したり、刃となって切断するイメージ。


 「――これで、どうだ!!」

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