005 僕の力?
転生して一日が経過した。何も敷いてない場所で寝た所為で、体のあちこちが凝ってしまっている。肩を回したり、首や腰を回して骨を鳴らしていく。このパキポキという音と感覚が、実は結構気持ち良かったりする。
そう思いながら伸びをして、周囲の様子を改めて確認するが……やはり夢では無かったようだ。正真正銘の現実で、どうやら本当に死んでしまったのだと理解させられる。日本とは異なるこの世界で生きていく事になったが、昨日は色んな事が有り過ぎて気付かなかった。
「……昨日から僕、何も食べてないや」
広野で目が覚めてから牛に追われ、エリさんって名前の人に出会い、得体の知れない誰かの声を聞いて……疲れ切ったから適当に安全そうな場所を見つけて、体を休める為に寝たんだっけ。
改めて思えば、あんな大きい牛が居たのだからこの穴だって何かの棲家だって警戒すべきだった。我ながら、今生きている事という奇跡に感謝したい気分である。だがしかし、現状の問題は解決しなくてはならないだろう。
「腹が減っては戦は出来ぬ……って言うけど、食べられる物があるのかが問題だなぁ」
周囲は森で、後ろは真っ暗な穴。何処まで続いているのか分からない以上、無闇に奥へ向かうのは自殺行為だろう。寝床に使ったとはいえ、長居するのは危険だ。異世界である事が分かっているのだから、どんな生き物が居るかも分からないのだ。
同じ場所に長居するのは、恐らく危険な行為だろう。キャンプ地であれば、気にするのはきっと野生動物と天候ぐらいだろう。まぁキャンプをした事は一度も無いのだが、安全だと自信が湧くまでは危険だと思う行動は避けるべきだ。
「……」
周囲の見る限り、何が食べられるかどうかなんて分かるはずもない。それに知識も足りないから、自給自足の生活というのは困難だろう。道具も無ければ、知識も無いという状況なのだ。
自分の身を守る事に関しては……あの時は無我夢中だったけど、どうにかなりそうだと思いたい。というか、何とか出来ないと困る。
「あの声はもう聞こえないし、エリさんも消えちゃったしなぁ……はぁ、八方塞がりだなぁ」
『グルルルルルッッ……』
「……」
何かこっちを睨んでる狼が居るけれど、今はとにかく食糧を確保すべきだろう。優先順位は一位が食糧で、二位は寝床……んで三位が――って、さっき僕は何て言った?
「……」
『バウッ!』
「またこのパターン……?」
『ワオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!』
「うぐっ……耳がっ!?」
鼓膜まで揺さ振られる感覚は、昨日に続いて激しい頭痛が襲ってくる。周囲の木々も揺られており、狼の咆哮を受けている様子だ。やがて吠え終わった狼は、前足を一歩だけ踏み出して来た。
一気に詰めて来るのではなく、徐々に詰めて来る様子は印象とは違うようだ。狼に見えたから獲物を見つけたらすぐに攻撃して来ると思ったけど、僕の様子を伺いながら距離を詰めて来ている。慎重な様子に面を食らったが、徐々に近付くのであれば僕にも勝機はある。
「(まだあの力を理解してる訳じゃないから、出来る範囲でなんとかするしかない)」
『グルルルルルル』
「――とりあえず、逃げるが勝ち!!」
深呼吸をしてからガンダッシュし始めると、少し遅れた位置から狼が僕の事を追い始める。警戒していた所為で遅れたのだろうが、ある意味ラッキーと考えて良いだろう。だがしかし、四足歩行の生き物と人間では速力が違う。
すぐに追い着かれてしまうのは必然だろうが、このまま逃げ続けるのも難しい。昨日に続いて走りっ放しで、体力もまだ回復し切っていない。消耗し続けているままじゃ、持久戦となった場合は僕に勝機はない。
「(このまま逃げ続けるのもなんだし、どうにかして撒いた方が良いな)」
と言っても、何か方法がある訳じゃないんだけど。とりあえずは、小石とかを投げながら入り組んだ道に入るしかない。何処かに街でもあれば、この状況をすぐに打破出来るのに一向に街なんて見当たらない。
人の気配もしない以上、自分の力だけでどうにかするしかないのだ。だがそんなのはいつも通り、過去から何も変わっていない。今までも、そしてこれからも自分で何とかするのは変わらない。
――汝よ、何故我が力を使わない?
「あ、丁度良かった!この状況をどうにかする方法を教えて下さい!」
――どうにか、と言うが汝だけで簡単に解決出来る状況だ。我が力を使えば何も問題はない。
昨日から思っていたけれど、この声は一体誰なのかは不明だ。でもエリさん同様、良くして貰っているのだ。頼りっ放しになってしまうのは気が引けるけれど、今は仕方ないだろう。この声の人には悪いけど、寄り掛かるぐらい頼りにさせて貰おうかな。
「その力?を使う方法を教えて欲しい。あの時は無我夢中で、詳しい使い方が分かってないんですよ!何とか出来ませんか?」
――ふむ、良かろう。汝よ、今から我が言葉を素直に受け止めよ。
よし、どうやら教えてくれるらしい。とりあえずの使い方だけは何とかなりそう。
――まずは手を掲げよ、あの魔物に向けるようにだ。
「え、えっと、こうですか?」
――問題ない。そして目の前の敵を消し去るイメージを頭に浮かべるのだ。
「ふむふむ、それでそれで?」
――以上だ。
「……え!?いやいや、そんな簡単に倒せるはずないでしょうって、うわぁ!何か出て来た!」
謎の声を従った結果、僕の掲げた手からドロドロとした球体が狼に放たれた。何も分からず、訳も分からない状態のまま……僕の目の前に居た狼の姿が消し去られたのである。しかも、跡形もなく。




