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004 一難去って

 ◇◇天界◇◇


 「ふふふ……どうやら、彼は当たりのようね。素晴らしいわ」


 椅子に座り、頬杖をして笑みを浮かべるエリ。水晶玉に映る真也を見つめるその視線は、可愛い物を愛でるような表情を浮かべている。そんな彼女の様子を後ろから見つめる数名の人影に気付いたエリは、椅子から立ち上がって首を傾げて問い掛ける。


 「あら、いらっしゃいませ。貴女からここへ来るなんて珍しい事もあるのね、ティーシャ」

 「あの中から彼を選んだ理由は、こういう事ですのね。お姉様」

 

 水晶に映る真也を見据えるティーシャと呼ばれる少女は、白いローブに身を包んでいる所為で顔が良く見えないようになっている。微かに見える目と視線を交わしながら、エリは水晶へと再び視線を戻した。

 

 「ええ」

 「……生前の生き方を見る限り、この人間は陰に生きていた存在のようですね」

 

 ティーシャはそう言いながら、水晶に映る真也の事を再び見据える。観察するように向けられる視線の中には、微かな嫌悪感が滲み出ているように思える。エリは肩を竦めながら、水晶に映る真也の様子を見て目を細める。


 「――お姉様の寵愛ちょうあいを受けて力を覚醒させたようですが、どうやら付け焼刃のようです。これから先、発展途上の子供が生き続けられるのでしょうか?」

 「発展途上だからこそ、彼はきっと頑張ってくれるわよ。私の為に、そして何より自分の為にね」


 ニコリと笑みを浮かべるエリに対して、ティーシャは目を閉じて溜息を吐いた。


 「それがお姉様の意思ならば、私は何も言う事は無いですね」

 

 呆れた様子で再び溜息を吐くティーシャは、楽しそうに水晶を見つめるエリに視線を向ける。本人の意思を尊重するつもりだが、ティーシャは思考を働かせるように目を俯かせる。


 「(数百名を超える人間の中から、お姉様は迷わずに彼を選んだ。どうして一目を置いていたのかは分からないけれど、あのような下賤げせんな人間がお姉様の寵愛を受ける?最初のテストである魔物を召喚し、選んだ人間が生き残るかの実験を行う。通る事が出来たのは数百の内の僅か数名……まさか、彼が生き残るとは正直思ってなかったですけど)」


 そんな事を考えるティーシャは、再び目を開けて水晶に映る真也を睨み付けるのだった。


 「(まぁ……それも今だけ。私の選んだ人間と衝突した時、彼はどんな顔をするのでしょうか。フッ――それを楽しみに待つとしましょう)」


 

 ◇◇異世界◇◇


 

 ――影。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 僕が手を出した瞬間、それに応えるようにして目の前に出現した黒い球体。それは正真正銘、影と呼んで良いモノだっただろう。それは目の前に居た牛を覆い尽くし、跡形もなくその存在を抹消させた。

 黒く塗り潰すだけではなく、その周囲のあらゆる物を巻き添えにしていた。


 「これが、僕の力……って事なのかな?」


 あの謎の声が言っていた力がこの力であれば、大概の存在に勝つのは容易い事だ。こんな力を自由自在に操る事が出来れば、僕はゲームや漫画のように強く生きる事が出来るかもしれない。そう考えると胸を躍らせざるを得ないし、ここが本当に異世界だという事を再認識した。


 ぐぅぅぅぅぅぅ~……。


 「まずは、食糧の確保かな。力を使った所為かな?お腹減ったし」


 ここは森の中だし、探せば何か見つかるかもしれない。そう考えながら、周囲を警戒しつつ食糧を探す事にした。サバイバルなんてした事無いけれど、こういう時こそ前向きに生きる事が大事だろう。

 向上心があれば、何事も案外上手く行くものだ。


 「上手く行った事、一回も無いけどね」


 そんな事を言いながら、森の中を散策し始める。ゲームでも採集クエストとかやった事はあったけれど、実際に自分で歩き回って何かを探す事になるとは思っていなかった。正直に言えば、採集クエストを真面目に消化した事は一度もない。

 どうも面倒臭くって、チュートリアルだけならやるけれど……自主的にやった事は一度もない。サクサクと好き勝手出来るのが、ゲームであるべきだと僕は思っているのだ。自由自在にキャラクターを操り、自分の好きなようにカスタマイズしていく。

 それがゲームを楽しむという事だと思っている。だからこの世界で僕は、自分の為だけに有意義に過ごして行きたい。過去のような退屈な日常ではなく、ロマン溢れる日常にしていきたいと考えてしまうのであった。


 「……ふぅ」


 しばらく散策したが、食糧らしき物は見当たらなかった。見つかった物と言えば、何かが棲家にしてそうな洞窟っぽい穴と気休め程度に流れている川があったぐらいだ。とりあえず力を使った所為で、僕の体力は限界だったらしい。

 穴の奥で壁に背中を預けた瞬間、僕は重くなった瞼を閉じたのである。

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