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002 エリと名乗る存在

 目の前の景色の色が一変し、灰色に染まったと同時に全てが停止した。あと数歩の所まで接近している牛も、薙ぎ倒されている木々も、風に揺られている木の葉も、何もかもが停止していた。まるで時間が止められているかのように。


 ――いや、実際に止められているのかもしれない。


 「(目の前に居る、この人に)」


 不思議な雰囲気に包まれている彼女を見てそう思ったのは、この灰色の世界となった景色の中で唯一色を持っているからだろうか。それとも、僕を含めて周囲の物と比べて彼女が異質な存在だと本能的に気付いたからだろうかは分からない。

 けれども、僕はそんな事を感じざるを得なかった。


 「『まずは初めまして、と言うべきかしらね。貴方の目には、私はどう映っているのかしら?』」

 「それは、どういう意味ですか?」


 言葉を発しているけれど、彼女の声に違和感を覚えてしまう。何故なら彼女の声は直接聞こえているけれど、耳だけではなく頭の中にも直接響いて聞こえて来るのだ。二重になって聞こえていると言えば伝わるだろうか?

 そんな違和感を感じながら、僕は彼女の言葉に首を傾げた。


 「『私は見る者によって姿形が変わるから、という事よ。貴方の反応から察するに、貴方の記憶に残っている誰かの姿になっているという事かしら。そういう目をしているわ』」

 「それじゃあ、キミは別の誰かで……僕が見ているキミは本当のキミではないという事、で合ってますか?」

 「『理解が早くて助かるわ。それにしても、貴方は面白い性質を持っているわね。だからかしら、この私が貴方を選ぶ事になったのは』」

 「……?」


 彼女の言葉の意味が良く分からない。性質?選ぶ事になった?どういう事だろうか?

 そう考えながら思考を働かせていると、さらに彼女が身を乗り出して僕の顔を覗き込む。先程まで距離があったのに、スッと縮められた距離は既にゼロ距離と言って良いだろう。僕は眼前にまで迫っている彼女の視線から目を逸らし、反射的に後ろへ下がった。


 「っ、な、何ですか?」

 「『あら、恥ずかしいの?可愛い所もあるのね』」


 彼女はそう言いながら小さく笑みを浮かべ、微笑ましい存在を愛でるような視線を向ける。向けられる視線は生暖かくて、何だか居心地が悪く感じてしまう。気不味いというか気恥ずかしいというか、そんな感じである。

 その感覚と空気から逃げ出したいと思った僕は、咄嗟に浮かんだ内容を彼女に問い掛けた。


 「え、えっと……キミがあの子じゃないとしたら、キミは一体誰なんですか?」

 「『知りたいかしら?そうね。まずはその説明をしたいと思うのだけど、あまり貴方に干渉すると他の人達から小言を言われる可能性があるのよね。まぁそれでも良いかしら、どのみち貴方には説明しなくてはならないのだし』」

 「あの、どういう事ですか?――っ!?」


 そう問い掛けようと視線を彼女へ戻した瞬間だった。僕は思わず驚きのあまり言葉を失い、目を見開いて目の前の彼女から視線を外せなくなった。

 至近距離に彼女の顔があり、両頬には彼女の手が添えられている。逃げられないように、いや逃がさないように僕の顔は固定されている。そんな身動きが取れない状態の僕に対して、彼女が取っていた行動が意味不明だった。

 いや、どうしてそうしているのかが分からなかった。


 「な、何してるんでしゅか?!」

 「『何って接吻かしら?あぁ、高校生ぐらいの子に言うのならキスって言った方が実感が湧くかしら?うふふ』」

 「ど、どうしてそんなことを?」

 「『貴方は私にとって大事な存在だからよ』」

 「え?……――ぐっ!?」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、僕の視界が一瞬グラついた。それと同時に激しい頭痛と目眩に襲われ、ユラリと全身が揺さ振られる。その痛みに耐えるように片手で顔を覆ったが、一向に痛みが引く事はないと理解した。

 内側から熱を帯びているような、全身が燃えるように熱くなっているのを感じる。片目だけじゃなく、頭の中がグチャグチャにされてるみたいに気持ち悪さを感じる。そんな不快感を感じていると、彼女は崩れていた僕の頭に手を乗せて告げた。


 「『貴方にはこれから二つの選択肢があります。貴方の居た世界とは異なるこの世界で、どう生きるかは貴方次第。この場で魔物に殺されるのも、その熱の意味を理解するかで貴方の進む道は別れる事でしょう。どうか、残念な結果にならない事を祈っていますよ』」

 「ま、待って、ください。キ、キミは誰なんですか?」

 「『私の事はエリと呼んで下さい。親しい間柄の者は、皆そう呼びますから』」


 ニコリと笑みを浮かべた彼女は、優しく僕の頭を撫でてそう言った。そして、それ以上の事を告げる事なく彼女は姿を消した。その瞬間、灰色に染まっていた世界が徐々に色が塗られていく。

 もし、このままこの痛みに耐えようとしていたら僕は死ぬ。多分だけど、僕は命を落としたからここに居るんだと思う。それが何も分からないまま目の前のこいつに殺される?


 ――そんなのは真っ平ごめんだ!


 「っ、どうにかしないと……っ」


 ――死にたくない。


 そうだ、死にたくない。せっかくあの退屈な日常から抜けられたかもしれないのだから、ここで死んでしまってはつまらないし意味が無いだろう。

 だったら僕がやるべき事は一つだ。一つしかない。


 そう意を決した僕は、何も理解出来ないまま中空に手を差し出した。まるで体中から溢れる熱を理解したかのように、無意識に僕はこう告げていた。


 「……死にたくないから。死にたくないなら、目の前のモノを壊せば良いんだ!」



 ◇◇天界◇◇



 彼に力を明け渡したが、細かい説明は一切していない。何故そうしたのか理由は明らかだが、他の者達が何と言うか分からないが正直に言えばどうでも良い。だがしかし、彼へ干渉するのは私だけで良いだろう。

 見た目は中性的で可愛いし、性格も控えめで大人しいという雰囲気だ。単なる好青年のように見えるけれど、彼は異質な力を持っている。私はただそれを使えるように目覚めさせただけで、後はその力を使えるようになるかは彼次第。

 

 「さて、どうなるかしらね。ふふふ、新しい私の()()は」

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