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022 カルル ②

 ――魔族。


 そう呼ばれる類いの存在は、漫画やアニメやゲームに出て来る定番中の定番と言っても良いだろう。大浴場から出た僕は、この世界に居るのだろうかと思いながらシャドウの言う通りに森の奥へ歩を進める準備を進めていた。

 誰にも気付かれないようにしながら、細心の注意を払って移動する予定だ。シャドウが言うには、森の奥に祭壇があるらしい。その祭壇で何を祀っているのかは分からないけれど、先程のシャドウの言葉にも疑問が残ったままだ。

 

 「ねぇシャドウ……森を出た方が良いってどういう意味なのさ」

 

 そう問い掛けるが、シャドウから答えが返って来る様子はない。この森を出た方が良いという命令にも似た指示を出して数分が経過しているが、伝える物を伝えて何処かへ消えてしまったようだ。僕に気配を感じる特別な能力なんて無いけれど、それでもシャドウが僕の近くに居ない事はなんとなくだが察した。

 しかし、何も調べないで移動するのは危険な行為かもしれない。そう思った僕は、ダークエルフの長であるリーシアではなく、僕の訓練相手と護衛をしてくれているテミスさんに頼んで数冊の本を持って来てもらった。

 その本でこの世界の事を少しでも知っておこうと思ったのだが……本を開く前に問題が生じた。


 「よ、読めない……!」


 そう、読めない。本のタイトルは勿論、本に記載されている内容すら読めないのだ。どれを見ても読めない事を理解した僕は、溜息混じりにゆっくりと本を閉じた。せっかくテミスさんに持って来てもらったというのに、読めないという結果にガッカリな展開だ。

 これがもし創作の世界であれば、異世界に来たと同時に翻訳機能が備わっている事があるのだが……どうやら僕にそんな物は備わっていないらしい。それでも、ダークエルフの人達と会話が成立するだけでも良かったかもしれない。

 言葉を読み書き出来ない事が分かった事が収穫と思えば、本を持って来て欲しいと頼んだのは意味があったと思うべきだろう。いや、そう思わないと負けた気分になる。


 「はぁ……これからどうしようかな。皆が寝るまで、結構時間ありそうだし……どうしよ」

 

 シャドウの言葉に従うのであれば、この森に居るダークエルフ達が寝静まった時に出歩くのが最善だ。僕に誰かの気配を察知するとか魔力を感知するとか、そんな魔法使いみたいな芸当は出来ない。出来るとしたら、ここに辿り着く前に会得した影の魔法。

 それが僕の出来る事の一つで、唯一無二の手札と言って良いだろう。しかし、これしか無いというのが心細いから、僕はテミスさん達に戦い方を教わったのだ。まぁ教わったと言っても、結果は散々な物だったけれど。


 「……ふわぁ……少しだけ、寝ようかな……すぅ……すぅ」


 そんな事を思いながら、僕は仮眠を取る事にしたのである。シャドウの言う夜の時間に起きれるかは微妙だけれど、僕は重くなった瞼に抗う事は出来なかったのだった。



 ◇◇森周辺・南部◇◇



 凶暴化はしてなかったが、微かに魔力暴走状態となっていたブラックベア。そして、そのブラックベアに使役されていたブラックウルフを討伐したカルルとガレル一行は自分達の集落へ戻ろうとしていた。

 しかし、ふと吹いた風と共にガレルは足を止めて森の入口方面に視線を向ける。その様子を見たカルルは、後頭部で両手を組みながら振り返ってガレルに問い掛ける。


 「どうしたんだよ、ガレル」

 「……妙な気配を感じた」

 「また魔物か?」

 「いや、この気配は……魔物ではない。別の何かがこの森の近くに居るようだ」

 「魔物じゃねぇって事は何だ?まさかエルフの野郎共か?それとも……いや、森には結界があるし、それは有り得ねぇか」


 カルルとガレルの会話に耳を傾けていた他のダークエルフ達は、真剣な様子が気になったのだろう。


 『ガレル様、カルル様、森に何か異変があったのですか?』

 「今のガレルに話掛けんな。集中が出来ねぇだろ」

 『す、すみません。し、しかし……何かあるのであれば、我々にも協力させて下さい』

 「その気持ちだけで十分だ。オレとガレルだけで調べる事が出来たから、お前等は先に戻ってろ」

 『で、ですがっ――!』


 気にすんな、と言葉を付け足したカルル。しかし、カルルがそう告げた瞬間だった。引き下がらなかったダークエルフの一人の胸を貫通する程の速度で放たれた一本の矢。それが突き刺さったのである。


 「っ……全員臨戦態勢っ!!ガレル、敵は何処に居るか分かるか?」


 気配察知を行っていたガレルへ問い掛けたカルル。だが、ガレルを見たカルルは目を見開いた。何故ならそこには、たった今首を斬られたガレルの姿があったのである。


 『初めまして、誇り高き魔族の一族よ。そして……――さようならだ』

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