021 カルル ①
◇◇森周辺・南部◇◇
ダークエルフの里は森に囲まれた場所に位置し、その上、凶暴な魔物が近付かないように簡易な結界術が施されている。魔法によって守護されていると同時に魔物と半共存するのが自然に出来たダークエルフが代々受け継いでいる掟なのだ。
勿論、凶暴な魔物が出現すれば、森が荒らされないように対処するのも掟の一つ。自然に作られた森と大地を守護し、森に感謝をしながら過ごすのがダークエルフの日常である。そんな神聖な森と化している場所に人間が侵入した。
黒髪黒目の少年。その少年を見た瞬間、不吉な予感が頭を過ぎっていたのだ。その話を姫様にしようとも、まともに取り合う様子はない。寧ろ、その少年を客人のように手厚く歓迎しているようにも思える。
いや、実際に手厚く歓迎している事は明白だ。ならば我々ダークエルフは、姫様の意思を尊重しなければならない。ダークエルフの長である彼女の存在は、この里に、この森に無くてはならない必要不可欠な存在だからだ。
「……」
「どうしたんだよ、ガレル。難しい顔しやがって……考え事か?ハゲるぞ」
「……」
「はぁ、あの人間の事なら考えても仕方ねぇよ。誰だってガレルみてぇに警戒はしてる。自由に出歩ける状態だが、必ず誰かが監視として傍に居るんだ。下手な事にはならねぇよ、所詮ただの雑魚だろ?あんなの」
「だと、良いのだがな」
カルルの言葉は真実だ。能天気な振る舞いをしているが、実力も十分なのは認めている。そして外面は粗雑で文句を言う面倒臭がりな面が目立つが、それが建前だという事は親衛隊の者であれば知っている。
「ガレル……」
「あぁ、気付いている。魔物だ」
「凶暴化はしてねぇ。けど、この魔力は危険だな。仕留めるか?」
「無論だ。少しでも危険な存在が居れば排除するのが我々の役目だ」
「そんじゃまぁ……殺るか――っ!」
誰よりも先に武器を取り出したカルルは、誰よりも素早い動きで魔物に接近して行った。他の者もそれを追うが、カルルの移動速度に追い着ける者などこの森に存在しない。その速度は親衛隊の中でも優れている。
凶暴化していない魔物であれば、容易に葬る事が出来るだろう。
「他の者はいつも通りの陣形を取れ。カルルの戦闘の邪魔にならぬよう、弓で援護するのだ!」
大樹の枝へ飛び移り、カルルの動きに合わせて弓矢を放つ用意をする。どうやら魔物の正体はブラックベアとブラックウルフのようだ。中央にブラックベアが陣取っており、取り巻きとしてブラックウルフが散開している。
魔力の流れがブラックベアから流れ、ブラックウルフと繋がっているように広がっている。それを見た時、普通の魔物ではない事が明らかだ。
「カルル、気を付けろ!その魔物、ブラックウルフを使役しているぞ」
「あいよっ!」
「我々はブラックウルフを射るぞ!カルルの負担を減らす事に専念する」
「フッ、毎度の事だがありがてぇな」
カルルは大樹を蹴って、ブラックベアの懐へと侵入する。大口を開け、両手を広げたブラックベアが接近したカルルに攻撃を仕掛ける。だがしかし、その速度ではカルルを捕らえる事は出来ないだろう。
「遅ぇよ!」
『グォォ……』
「一丁上がりだな、ブラックウルフも殲滅と。ふぅ、お疲れさんだなガレル。相変わらず良い援護だったぜ」
「フッ、お前も素晴らしい腕前だったぞカルル」
そう告げながらカルルと手を合わせる。白い歯が見える笑みを浮かべるカルルを見た事で、他の者達も安堵の息を漏らして口角を上げた。その様子を見る度、私ガレルは思う。
この親衛隊の中で、恐らく最もこの森を護りたいと思っているのはカルルであると……。
◇◇森・南部入口◇◇
『魔物の反応、消滅しました』
『ほぉ……ならばここから入るとしよう。諸君、誇り高き魔族の一族と対面しようではないか』




