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020 異常な魔力 ②

 大浴場へと移動した僕は、彼女の焦っていた様子が気になった。さっき見えた真っ白な空間で、シャドウに言われた一言が関係しているのだろうか。でもそれは一瞬で、すぐに彼女の前に僕は戻された。

 

 ――今すぐ里を出ろ。

 

 そんな命令みたいに言われた訳ではないが、その言葉の意味が良く分からなかった。僕という存在がこの世界に何らかの影響を及ぼす可能性は低い……なんて事は言い切れない。でも、シャドウの言うように僕自体が何か影響を与えてしまうのならばシャドウの言う通りにする方が良いだろう。

 幸い、僕をまだ快く思っていない人も居る。出て行くのならば、止める人は全くと言って良い程に居ないだろう。もしかしたら、僕が姿を消しても気付かないかもしれない。


 『「何を考えている、汝よ」』

 「シャドウ……やっぱり僕は、この森を出た方が良いの?」

 『「無論だ。汝という存在はこの世界に少なからず影響を及ぼしている。微かにだが、世界の歯車は軋み始めているだろう」』

 「ちょっと待って?僕って世界規模で影響与えてるの!?」

 『「そう驚く事でもないぞ。汝はこの世界の住人ではなく、別の世界の住人だ。世界のバランスという意味で言えば、確実に影響を及ぼすのは極々自然の摂理だ。それを良くするも悪くするも、それは神や我々の役目だろう」』


 我々……という事はやはり、シャドウは彼女とは違う特別な存在という事だろうか。しかもシャドウと同じ存在が、複数存在しているという事が確定した。

 この世界が異世界という時点で、もう僕が知っている常識は通用しない。人間同士の関係性は彼女達と関わって違和感は覚えないけれど、それでも考え方や物や命への関心も違うはずだ。宗教的な考えで言えば、森を傷付ける事を忌み嫌う可能性もある。

 現に僕と初めて会ったダークエルフ達は、僕という存在をすぐ異端として認識していた。僕という存在を警戒しているのか、それとも人間という存在を嫌っているのか。あるいはその両方というのが、僕としての見解だ。


 「はぁ、でも駄目だなぁ……全然まとまらないや」

 『「まだ森を出る事に迷っているのであれば、もう一つだけ提案をしよう」』

 「何さ……」

 『「ダークエルフの里は全体が森だが、この者達が守っているのは森だけではない」』

 「え?」

 『「今夜、誰もが寝静まる時が頃合いだろう。森の奥へ向かうと祭壇があるはずだ」』

 「祭壇って……何かまつってるの?」

 『「それは行ってからのお楽しみだ」』


 シャドウはそう言って消えたのだろう。僕に気配を読み取る能力は無いけれど、なんとなくそんな感じがした。それから声を掛けても反応が無いという事は、眠ったと考えて良いだろう。そう考えた僕は、大浴場から出て用意された部屋へ向かった。



 ◇◇森周辺・東部◇◇



 裸を見られてしまったが、しかしそんな事は些細な問題だった。気恥ずかしさはあれど、気を失っていた彼の魔力はあまりにも異常だったのだろう。リーシアは難しい表情を浮かべて、里に保管されている手記に目を通していた。

 先代まで続く手記が保管される場所には、リーシアより前の里長が残した手記が数万冊も存在する。それを何度も読み漁っていたリーシアには、彼という存在を見た瞬間に手記に記された物を思い出していた。


 「(やはりこの世界には、何度も彼と同じような存在が姿を現した事が記録されてる。黒髪黒目の世界を渡る存在……旅人のように魂が流れ着いた者、生きたまま勇者として召喚された者、別の世界で命を落としてこの世界で転生した者……渡り方は様々だけど、やはり同じだ。見た目も、その異常さも)」


 特に後者に記述されている「勇者として召喚された者」と「命を落として転生した者」に関して、異常な程の魔力を有している事はこの手記にも書かれている。ダークエルフの里でも、相対しているエルフの一族にも、遭遇した事があると書かれている。

 しかし先代の残した手記には、彼のような存在が居たという記述はない。遭遇しなかったのか、それとも当時に存在していなかったのか。何にせよ、記述にある物に違和感がある事にリーシアは気付いた。


 ――異常な魔力を持った彼等が、元の世界へ帰ったという記述がない事に。


 「シンヤさん……私は貴方を、どうすれば良いですか?」


 リーシアは手記に目を落としたまま、その場に居ない彼へ問い掛けたのである。

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