018 異端の存在?
「……」
ダークエルフの里は大樹に囲まれ、大自然を残したまま多くのダークエルフが暮らしている。森の恵みを借り、森に縋るように生きているような種族だと言えるだろう。同種族であるエルフと敵対するダークエルフの里で暮らすようになった彼は、ダークエルフの長であるリーシアの客人として持て成される事になっている。
のだが……
――今、彼はその長である彼女に正座をさせられていた。右頬に赤く染まった手形を付けながら。
「シンヤさん」
「はい」
「私が何を言いたいか、分かりますか?」
「はい」
ぷくぅっと膨れさせる彼女は、身を乗り出して彼を叱っている。湯浴みを覗いた訳ではないが、結果的に裸体を見てしまったから叱られているのだろう。だがしかし、裸一つ等、見られても減るものでもないと思うのは我だけだろうか。
彼女も年頃という事だろう。意識的に覗かれた訳ではない事を理解していても、裸体を見られた事への気恥ずかしさを抑えている様子だ。そんな様子を眺めながら、我は彼等の様子を観察している。
「誰にも見張りを頼まなかった私にも非があったかもしれませんが、ここの湯浴みは時間で入る順番が決まっているんです」
「テミスさんが癒されるって言ってて……いえ、時間なんて知りませんでした。ごめんなさい」
「はぁ、説明をされてなかったという事はこちらにも非がありますね。えっと、じっとしていて下さい」
「??」
彼女はそう言いながら、彼に近寄って殴った頬へと手を添える。どうやら治癒魔法を使い、赤く染まった平手打ちの跡を治癒しているようだ。他の魔法と違い、治癒魔法は精神的疲労があるというのに殊勝な心掛けだ。
だが、平手打ち如きの腫れを治す為に使うとは……随分と勿体無い使い方をするものだ。
「これでもう大丈夫ですね」
「今のは?」
「治癒魔法です。殴った事は謝りますが、この魔法の事はどうか内密にお願いします」
人差し指を立てて、片目を閉じる彼女はそう言った。内密にする理由は、彼には理解出来ないだろう。だがしかし、彼女はダークエルフであり、この里の長である立場の存在だ。内密にする理由としては、十分な理由だろう。
「どうして内密、なんですか?」
「あぁええっと……」
彼の疑問は当然だが、目を逸らして彼女はどう答えようか迷っているようだ。彼女はダークエルフという種族でありながら、光の魔法を使えるという事実を隠したいのだろう。何故ならば、ダークエルフはエルフと違い、風、闇が主に扱う種族。
そして、ダークエルフの中で光の魔法を使う存在というのは、この世界では「異端」と称されているのだ。そう、彼女は異端なのだ。それを理解するには、彼にダークエルフとエルフの違いを話す事から始めなくてはならない。
その説明をしようか迷っていると、彼女の付き人が時間を告げて有耶無耶になった。何なのか分からず仕舞いとなってしまった彼は、取り残される形で湯浴み場に座り込んでいる。ふむ、話し掛けるのであれば、今が最適か。
そう思った我は、彼の精神世界へ誘う事にしたのであった――。




