017 真っ白な空間で
「あれ……ここは」
目が覚めた僕は、周囲の様子に違和感を覚えた。それは何故か、答えは簡単である。
先程まで浴場に居たはずだが、周囲の景色が一変しているからだ。大樹の中に作られた更衣室の景色ではなく、真っ白な空間がただ広がっているだけ。空間が何処まで続いているのか分からない程、何処までも続く白く染まった空間。
そんな空間の中で目が覚めれば、誰だってここは何処だ?という状況になってしまうだろう。そんな事を考えていた時だった。真っ白に染まっている空間の中で、目の前で亀裂が入って黒く染まる部分が出現した。
「うわっ……!」
いきなり何が起きたのか分からず、警戒して一歩二歩引き下がった。だがしかし、その亀裂から黒い球体が出現した途端に理解する事になった。
『「汝よ、我の声が聞こえるか?」』
「っ……もしかして、シャ、シャドウ?」
『「その通りだ。ちゃんと聞こえているようだな」』
出現した黒い球体は、どうやら予想通りシャドウだったようだ。だが、姿形が見えなかった声の主を見たのが始めてだったからか。いや、そもそも声しか聞いていない状態から何者か分からないのは当たり前だ。
容姿も想像してみたが、話し方で容姿を考えるのには限界がある。僕が想像していたのは、話し方を考えれば古風な雰囲気に包まれているような人物像を想像していた。しかし、出現したのはただの球体だった。
何と言うか……予想を裏切られた気分である。
そんな事を考えていると、シャドウは僕の周囲を飛び回る。漫画やアニメに出てくる妖精のように、あるいは元気の良い蛍のように周囲を飛んでいる。そんな様子から目の前で停まり、シャドウは言った。
『「汝よ、ダークエルフの里に来たのだな」』
「あ、うん。成り行きでというか、匿ってもらってる感じだけど……それがどうかしたの?」
『「今すぐ里から出る事を提案しようと思ってな」』
「どうして?別に不便とかないけど」
『「それは今だけの話だ。今後の事を考えるのならば、汝は里を出た方が身の為だ」』
「どういう事?」
シャドウの言っている意味が分からない。最初は命を奪われそうになったから驚いたけれど、リーシアを含め、今は誰にも命を狙われている様子はない。警戒しなさ過ぎな所を注意するぐらいだし、戦闘訓練も出来て居心地も悪くない。
出て行く要素なんて何一つもないと思っているのだが、シャドウの言い方には微かな説得するような感覚を覚えざるを得ない。いや、本当に説得しに来ているような口振りでしかない。その理由が分からない僕にとっては、どうしてそんな事を言うのか理解の外である。
『「どうしてもだ。このまま里に居続ければ、汝にとって不都合な事が起きる。いや、巻き込まれると言った方が正しいだろう」』
「巻き込まれる?僕が?何に?」
『「汝よ、この世界は汝の生きていた世界とは根本的な物が違う。それは理解しているな?」』
「うん。それはそうだろうけど」
『「ならば里から出るべきだ。理由は後でもゆっくり説明出来るが、今すべきではない。今は何も聞かず、我の言う事に従うべきだ。汝の……いや、他者の事を思うならばな」』
「???」
ますます意味が分からなかった。だけれど、シャドウが何かを伝えたいという気持ちだけは理解出来た。しかし、何も不便がない以上、無理に出て行く訳にはいかない。ダークエルフという種族ではないけれど、誰だって一宿一飯の恩義を仇で返すのが誰であろうと礼儀知らずだ。
僕はそれを踏まえた上で、シャドウに返事をするのだった。
「――分かったよ。でも、ちゃんと後で説明してよね?」
『「無論だ。我は汝の味方だからな」』
そう短く言葉を交わした途端、僕は現実世界で目が覚めたのである。そこには、ムスッとした表情と心配したような眼差しで覗き込むリーシアの姿があった。




