015 カルルとガレル ②
森林地帯を住処とする種族であるダークエルフは、ファンタジー世界物の漫画やアニメに多く登場している。エルフ同様に魔法や弓術を扱う事に長けており、人間とは相容れない思想を持っている事が僕のイメージだ。
だがそのイメージ通り。どうやらこの世界でも、ダークエルフは人間を忌み嫌っているらしい。話してみなければ全員がそうなのかと分からない部分はあるけれども、少なくとも歓迎はされていないという事は彼等……カルルとガレルの様子を見れば一目瞭然だろう。
姫様と呼ばれているリーシアは分からないけれど、少なくともジラルドを含めた彼等から守ろうとしてくれたから違うと思いたい。親衛隊の中でも、テミスは人間を嫌っているかどうかは分からない。現状、現段階で僕と言葉を交わしてくれては居る。
だが、それもいつ亀裂が入るのかも分からないから、言葉を交わす時は慎重に言葉を選んだ方が良いだろう。そんな事を考えながら、僕は案内された室内で差し出された飲み物を口に含んだ。
『どうぞ』
「あ、美味しい」
緑茶のような優しい味だが、日本のお茶よりも少し薄めだ。しかし、懐かしいと感じられる心地良さに包まれて、微かに緊張感が解れた気がする。完全に気を休める事は出来ないが、それでも無いよりはマシだというのは確実だ。
なんて味わっていると、僕へと視線が集まっている事に気付いた。何故視線を向けられているのかは分からなかったが、カルルはそんな僕に対して呆れた表情を浮かべながら頬杖をして告げた。
「お前、警戒心無さ過ぎだろ」
「え?どうしてですか?」
そう問い掛けた瞬間に彼女はクスリと笑みを浮かべ、ジラルドやテミスは肩を竦めている。その反応の意味が分からなかった僕に対して、カルルは深い溜息を吐きながら言葉を続けた。
「はぁ……毒が入ってるとは思わないのかよ」
「え、僕、毒盛られてるんですか!?」
「だったら死んでるだろうが!そうじゃねぇよ!少しは疑ったりしねぇのかって事だよ」
「あぁ、なるほど」
彼女に仕えているのであろう人が差し出してくれた飲み物だが、言われるまでそんな事は考えていなかった。今思えば、ガレルやカルル同様、僕を警戒していない者の方が少ないはずだ。それはこの場に居る殆どの人達が、僕という存在を怪しい存在だと認識しているだろう。
捉えようによってこの状況は、「ダークエルフ」というワインの中に「僕」という泥水が混ざっているようなものだ。そんな状況があれば、誰だって警戒するのは当たり前だろう。少しでも考えれば思い付く状況だったのだが、僕はそれを一度も考えなかったのだ。
「なるほどじゃねぇよ。ったく、警戒してるこっちがバカみてぇじゃねぇか」
「カルルはそのままでも馬鹿だがな」
「おいガレル、それは喧嘩か?あ?喧嘩を売ってるのか?」
「威嚇しても滑稽なだけだ。ジラルド様やテミスはともかく、お前に遅れを取る事はない」
「言ってくれるじゃねぇか。上等だ!今すぐにでも相手してやるから外に出ろ!」
身を乗り出して唾を飛ばすカルルだが、ガレルは腕を組んだまま動こうとしない。見ている限り、気性の荒いカルルと冷静沈着なガレルが兄弟のように見えてしまう。バランスが取れているように見えるからか、仲が悪いようには見えない。
口論しているのは、互いが認め合っているからだと感じられる。そんな信頼感がある空気に包まれている彼等を眺めていたら、僕は自然と笑みを浮かべていた。同時に、自分には得る事が出来ないという諦めを感じるのだった。
「姫様、我々はこれから周囲の警備に向かいますが……念の為、テミスを置いて行きます。何かあれば彼に」
「全員で警備に行っても良いんですよ?と言っても、貴方は聞かないでしょうけどね」
「いくらあの者達が居ようとも、姫様は我々の長なのです。少しは自覚を持って下さい」
「はぁ、理解していますよ。貴方達も、くれぐれも怪我のないように。危険な事は避けて下さい」
「ハハッ」
そう告げたジラルドは頭を下げ、カルルとガレルを連れて森林の中へと入って行った。
「……ところでシンヤさん、ここでの生活はどうですか?」
「凄く良くして貰ってると思いますよ。まぁ、まだ一日しか過ごしてませんけどね」
「何か足りない物があれば、遠慮せずに言って下さいね」
足りない物と聞いて、何があるのかと思い浮かべてみる。携帯やテレビ、ゲーム等が無い事が不満だなって言っても仕方が無いだろう。ここで足りない物というと、あったとしてもすぐにどうにか出来る物は思い浮かばなかった。
「今は特に無いですね。しなきゃいけない事が多いなって思うぐらいで」
「しなきゃいけない事ですか?」
「はい。僕は歓迎されてないみたいなんで、少しでも皆さんと仲良くなれたらなって」
友人にまでなるつもりは無いけれど、ある程度に接する事が出来るぐらいにまではしたい。多くは望む事は無いだろうけど、他愛のない会話が出来るぐらいにはしたい。そんな事を考えながら、僕は飲み物をもう一度口に含んだ。
だが、僕は知らなかった。……この森に侵入者の影があった事を。




