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014 カルルとガレル ①

 「……綺麗だ」


 夜目で彼女の姿は良く見えなかった。容姿は微かに分かるぐらいだったが、それでもハッキリ見た訳ではない。正面から見た訳でもなく、後ろを振り返る姿を見た事しかない。だが、今は違う。

 明るい景色の中で見た彼女の姿は、他のダークエルフよりも輝いているように見えた。贔屓目で見ているのかもしれないが、その存在はとても周囲から逸脱しているように感じられる。


 「っ……シ、シンヤさん、いきなり何を?」

 

 彼女が上擦った声を出した瞬間、僕は自分で何を口走ったのかを理解した。その言葉の意味を理解したと同時に、徐々に気恥ずかしさが体温を上昇させていく。

 互いに目配せをしていたが、周囲にジラルドやテミスは咳払いをして僕と彼女はハッとした。気不味い空気の所為で何を言えば良いのか混乱していたが、彼等が気を遣ってくれたのだろう。彼等から気不味い静寂を破ってくれた。


 「コホン。シンヤ殿、姫様、立ち話もなんですし移動しては如何ですか?」

 「そ、そうですね。どうですか?シンヤさん。この後はお暇ですか?」


 今だけは感謝です。感謝を心の中でしつつ、僕は彼等の言葉に従う事にした。

 

 「僕は構いませんよ。特に予定がある訳でもないですし」

 「では行きましょうか」


 彼女はそう言って歩くように促し、僕はその少し後ろを着いて行く。彼女、ジラルドを含めた親衛隊、そして僕とテミスという並びで移動を開始した。道を狭めて他の人達には申し訳ないが、テミスと少し距離を置いて言葉を交わす。


 「テミスさんは、彼女……リーシアさんの護衛をやって長いんですか?」

 「そうですね。私が幼少の頃より仕えさせて頂いてますから、かれこれ十年以上ですかね」

 「十年以上ですか?」

 「それでもまだまだですね。私は護衛としては半人前ですし、他の者は私よりも実力がありますからね。少々肩身が狭いです」


 苦笑しながら話すテミスだったが、会話を聞こえていたのだろう。前に居る親衛隊の人が、テミスの言葉を否定した。


 「おいおいテミス、お前が半人前だったら俺達はどうなるんだ?」

 「そうだぜ?ったく……謙遜もやり過ぎれば嫌味だぞ」

 

 後頭部で髪を結っている人とツンツンした髪で小柄な人が微かに振り返っている。口振りから察するに、テミスは自分の実力を過小評価しているのだろう。それを否定しながら会話に混ざる辺り、テミスとの仲が良いのかもしれない。


 「カルル、ガレル、そうは言っても私が半人前なのは事実だろう?」

 「言っとくが、模擬戦でオレはお前に勝った事なんか無いぞ」

 「俺もだな」


 カルルとガレルと呼ばれる二人の言葉に対し、テミスは肩を竦めながら「私はまだまだだよ」と言った。そんな彼等の様子を眺めていると、テミスは僕の様子に気付いたのだろう。話に置いてかれてる僕に彼等を紹介してくれた。


 「――シンヤ殿、申し訳ありません。この者達は私の同僚でカルルとガレルと申します」

 「えっと、シンヤです。宜しくお願いします」


 歩きながら会釈をすると、彼等は順番に自己紹介をした。どうやら後頭部で髪を結ってるのがガレルで、小柄でツンツンした髪の人がカルルのようだ。ガレルの方は高身長で体格も良いから、護衛としては納得が行った。

 だがしかし、ガレルよりも小柄なカルルは護衛としては物足りない気もする。僕と目線が変わらないけれど、親衛隊を務めてるのだから相当な実力者なのかもしれない。そんな事を考えていると、一足早くにカルルが僕を見て言った。


 「今お前、オレの身長を見て『こんな奴が護衛を?』とか思っただろ」

 「いや、そんな事は」

 「ハッ、どうだかな。だが舐めるなよ?甘く見てると、気付いた時にはその首が落ちるぜ?」


 こんな風にな、とカルルは目の前から姿を消した。一瞬の事で何が起きたのか理解出来なかったが、喉元に突き付けられてる冷たい物で理解が出来た。全身が硬直する程の寒気を感じていると、カルルは僕の耳元で囁くように呟く。


 「このまま切り落としてやっても良いんだぜ?」

 「っ、じょ、冗談ですよね?」

 「冗談じゃなかったら、どうする?」


 ニヤリと笑みを浮かべるカルル。本気になれば、いつでも僕の首を落とす事が出来る事は……素人の僕でも理解が出来た。気を抜く事が許されない緊張感に包まれたが、カルルの頭上に拳が落ちた。


 「あだっ!な、何しやがんだよガレル!」

 「それぐらいにしておけ。姫様の前だぞ」

 「すまない事をしたな。カルルに代わって俺が謝罪する」

 「チッ、姫様の前だから今日の所は勘弁してやる。だがな、これだけは覚えてろよ?オレはお前を信用してないし、油断もするつもりは無い。少しでも怪しい行動をすれば、その時は容赦なくその首を落とす」


 仕方の無い事だが、どうやら僕は信用されていないらしい。それもそうだろう。彼等にとっては僕は招かれざる客だ。姫様と呼ばれている彼女の客人だとしても、彼等にとっては紛れ込んだ異物しかない存在だ。

 しかし、頭ごなしに決め付けられるのは……僕としても納得が出来る訳じゃない。それ程、僕は人間が出来ている訳ではないのだ。


 「僕が貴方達の……ダークエルフの里にとって、人間は敵のような存在なのかもしれません。ですが、僕は一宿一飯の恩義を仇で返すつもりはありません。恩を仇で返すような、くだらない人間じゃないつもりです」


 立ち止まった僕は、その場に居る全員に聞こえるように言った。少し前を歩く彼女達も、ガレルとカルルも、そしてテミスも僕へと視線を向けている。一斉に向けられる視線に緊張してしまうが、それでもこれは曲げるつもりはない。

 それは僕が、彼女に庇ってもらった時に考えていた事だ。曲げるつもりも、曲げさせるつもりもない。


 「ハッ……人間の言う事なんて信じるかよ」

 

 吐き捨てるように告げられた言葉だったが、それ以上は攻撃しないという事なのだろう。カルルは、背中を向けて歩き出した。ジラルドやテミスが溜息を吐いていたが、彼女は安堵するように小さく胸を撫で下ろしていた。

 こんな場所で流血沙汰が起きなかった事を安堵したのだろう。そんな様々な反応を見ながら、先を歩く彼女達の背中を僕は追うように歩き出した。信用されるのは難しいようだが、どうにか認めさせる必要があると感じる。


 それが今、僕がやるべき事だと思いながら一歩ずつ前へ進んだ。

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