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013 一目惚れ

 ◇◇夢の世界◇◇



 ――真っ白な空間だ。


 目を開けた時、頭の中でそんな言葉が浮かんだ。だがしかし、ただ真っ白な空間が広がっているだけではないようだ。僕を中心にして、四角に形作られた空間が周囲を覆っている。まるで僕が飼い慣らした動物のように……いや、この場合は違うか。


 「僕を閉じ込める為に作られているみたいだ」


 感じたままに呟かれた言葉は、虚しく空中で消滅してしまう。全てが真っ白に包まれているのなら、発した言葉ですらも空虚に染まってしまうのだろうか。誰にも届かず、誰とも関わる事が出来ない程の虚無感。

 そんな何も無い空間の中で、僕は一体、この場所で何をしているのだろう。


 「……?」


 そんな事を考えていた時、目の前に何かが出現した。「何か」というのは、それが液状になって浮遊しているから「何か」と呼ぶしか無いだろう。出現したそれは液状で、徐々に「何か」になろうとしているように蠢いている。

 液状となっている水銀が、必死にその「何か」になろうとしているような……そんな感じ。


 「――」


 僕はそれに触れようと一歩だけ踏み出して、ゆっくりとそれに手を伸ばしたのである。



 ◇◇夢の世界 終◇◇



 「……」


 目が覚めてしまった。手を伸ばしたまま、起きるのは初めての経験だ。何か、不思議な夢を見ていた気もする。だがしかし、記憶の中にその内容が残っている様子はないようだ。大体の夢の内容は覚えているのだが、今回の夢の内容は朧気となっている。

 記憶に残る程の夢ではなかったのか、自分自身で大した物ではないと脳が勝手に処理したのだろう。そんな事を考えながら、ベッドから起き上がった。


 ぐぅぅぅぅぅ~~……。


 そういえば、昨日の夜に何も食べてなかった。二日間何も食べてない状態になってしまったから、空腹感はとてつもなく襲い掛かって来ている。下手をすれば倒れてしまう程の空腹感の中、僕は部屋から食べ物を求めて足を運ぶ事にした。


 「おや、シンヤ殿、おはようございます」

 「あ、どうもです。えっと……」


 確か親衛隊の一人だったはずだが、ジラルド以外の名前を聞いていなかった。思わず首を傾げてしまったからか、遭遇した彼はクスリと笑みを浮かべて名乗ってくれた。


 「私はテミスと申します。姫様よりシンヤ殿の護衛を任されている内の一人です」

 

 自己紹介が後になってしまい申し訳ありません、とテミスは僕に頭を下げた。そんな事する必要は無いと両手を振ったが、彼は首を左右に振って言葉を続けた。


 「私は護衛という立場ですが、シンヤ殿は姫様のお客人という立場です。本来であれば、護衛を任された時点で自己紹介をするべきでした。他の者も、同じ事を言っていましたよ」

 「僕なんかにそんな改まる必要なんて無いですよ。皆さんにとって、僕は招かれざる客ですから。そんな畏まられると、その何と言うか……困ります」


 腫れ物扱いというか、偉くもない立場なのに持てはやされるのは気恥ずかしい。背中が痒ってしまうという事もあるし、過去の人生でもそんな扱いをされた事が無い。だから、そんな扱いを受ける事に抵抗があるのだろう。

 

 「ですが、護衛という立場なので体裁は守らせていただきますね?それが私の仕事ですので」

 「あはは、分かりました。けど、こういう時は砕けた対応をしてもらえると嬉しいです」

 「善処します」


 そう言って彼は爽やかな笑みを浮かべる。好青年で近寄り難くない性格の持ち主なのだろうが、その爽やかな空気感は少し苦手だ。クラスに一人居るであろう誰にでも平等に対応する人当たりの良い人というのは、僕にとっては関わりたくないタイプの人種だ。

 

 「そういえば、シンヤ殿は今日は何を?」

 「えっと、昨日食べ忘れてしまったのでご飯でも食べようかなって思いまして」

 「ならば案内しましょう。私達の宿舎となってしまいますが、それなりに空腹感は満たされると思いますよ」

 「二日も食べてないんで、期待しても良いですか?」

 「ははは、それではその期待に応えるとしましょう」


 彼は再びニコっと笑みを浮かべて、宿舎にある食堂へと案内してくれた。昨日は鹿肉を使った料理だったらしく、余っている料理をご馳走になった。空腹感がある所為か、食べた事もなかった事もあって思ってたよりも空腹感は満たされる。

 期待以上の結果となり、二日間の食欲を満たす事が出来た僕は……彼と共に、再び里を散策する事にした。昨日は夜だった事もあり、見える景色が全く違う。夜とは違う新鮮な景色を楽しんでいた時、僕の目の前に彼女……リーシアが姿を現したのである。


 「おはようございます。昨日は良く寝られましたか?」


 遭遇した彼女は開口一番にそう言いながら、柔らかい笑みを浮かべる。その表情を見た瞬間、夜に見る事が出来なかった彼女の顔を見て心臓が高鳴った。


 銀色に輝く長い髪、赤と黄に輝く双眸……凛としたその姿は、一目見た途端に心を奪われてしまったのである。


 「……綺麗だ」


 気付けば僕は、そんな事を口走っていた事に気付くのは……数秒後の事である。

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