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012 親衛隊とジラルド ②

 「い、いきなり何を言うのですか?」

 「そうですよ、我々は客人である貴方を護衛する立場。その護衛対象である貴方と戦うなど」


 親衛隊の人達は僕の発言に意を唱える中、彼等を束ねるジラルドだけは無言でこちらを見据えていた。殺気を向けられている訳ではない。だが、僕が何を考えているのかを見定めようとしているように見える。

 

 「シンヤ殿、貴殿に一つ問いたい」

 「何でしょう」

 「何故、我々に戦い方を教授して欲しいと?明確な理由をお話願えますかな」


 侵入者扱いをしたとはいえ、彼等の……いや、彼の目にはまだ僕の存在は怪しく見えているはずだ。このダークエルフの里を束ねる長である彼女が、僕を客人扱いした事でその疑惑が有耶無耶になってしまっているのだ。

 だから僕は、警戒している彼等をわざと監視に付けた。周囲の目から、なるべく意識を向けられないようになる為には、それが一番手っ取り早いと考えたからだ。事実、周囲から向けられる視線は少ない。

 警戒しているけれど、親衛隊である彼等が居るから安心出来るというのが大きい。だがしかし、僕は考えざるを得ないのだ。経緯はどうであれ、ダークエルフの里に客人として迎え入れられたのは運が良かったかもしれない。

 だが、それが長く続くとは限らない。万が一に備え、僕自身が強くならなければと考えるのは必然だろう。ましてや、この世界の事を良く知らないのだ。用心するに越した事は無いだろう。


 「僕は弱いですからね。強くなりたいと思うのは、男としては当然の事かと」

 「ならば、何故強さを欲する?このまま里で、姫様に匿ってもらうという選択肢もあるはずではないか?我々も命令であれば、貴殿を護衛するだろう」

 「確かにそうかもしれません。だけどそれは、命令があればの話でしょう?」


 そう、命令があればの話だ。僕を護衛して、監視しているのは彼女の命令があるからだ。もし彼女の命令に従っていなければ、僕は既に処刑されて死んでいる可能性が非常に高い。そしてそれは、保護されている現状も同じだ。

 もし万が一、この里が何者かの手によって襲撃された場合。親衛隊である彼等は、いち早くに彼女の無事を確かめるか護衛する立場だ。優先順位に従うのであれば、それは当然の結果だ。それが分かっているからこそ、僕は彼等に教えを請わなければならない。

 例え、自分の命が狙われているとしても。これからの事を考えれば、僕自身の戦闘能力を上げるのは必要不可欠だ。襲撃から逃げる事が出来ても、そこから生き残る術が無ければ話にならない。


 「……(この少年の、時折見せるこの瞳は一体……)」

 「貴方達は彼女の護衛で、僕の護衛じゃない。仕えてもいない主人を守るのは嫌でしょう?だから、僕自身が僕の身を守る術が欲しいんですよ。その為の力でもあります。あぁ、勘違いしないで欲しいんですけど。

 「?」

 「別に僕は、この里に危害を加えるつもりなんてありません。衣食住を提供してくれる時点で、かなり助かってるので。その恩義は返すつもりですよ。ですので……お願いします。僕に戦い方を教えて下さい」


 僕は頭を思い切り下げて、彼等にお願いをした。語ったのは全て本心だから、これで断られれば引き下がるしかない。これ以上の申し出は、相手により警戒させる事に繋がる恐れがあるからだ。

 ここで断られた場合は、監視されながら一人で力の使い方を覚えるしか無いだろう。そんな事を考えていた時、僕の前に一本の木刀が突き刺された。すぐに頭を上げた僕の目の前には、渋々と木刀を手に持ったジラルドの姿があった。


 「木刀……いや、木剣ですか」

 「まずは貴殿の基礎体力を確認する必要がある」

 「っ、それじゃあ!」

 「貴殿の言う通り、我々は貴殿を未だ信用し切っていない。ならば、貴殿の意志を見届けて判断するとしよう」

 「宜しくお願いします!」


 恐る恐る木剣を構えた僕に対し、ジラルドは睨み付けるような視線を向けてくる。気迫としては十分だし、状況的には蛇に睨まれた蛙という言葉がぴったりだろう。だが僕は、生唾を飲み込んでから意を決してジラルドに木剣を振るった。


 「っ!」

 「踏み込みが甘いですぞ」

 「――!」

 「(果敢に攻める意気は良し。だが、動きを見る限り素人。このような少年が、この森を二日も生き残るとは信じられない。まず間違い無く、魔物の餌になるだろう。だがなっていない……真意はどうであれ、確かめさせてもらう!)」

 

 振るっても当たらない木剣は、虚しく空を切ってジラルドの横を通り過ぎてしまう。木剣に狙いを定めても、軽く受け流されて攻撃になっていないのは明らかだ。影の力を使えば、なんとか勝てるかもしれない。

 しかし、制御の仕方をロクに教わっていない力を使えば、相手を殺してしまう恐れがある。それ程に影の力は、鋭く威力も高いのだ。一度間違えを犯せば、後戻りが出来なくなってしまう。だからまずは、僕自身の基礎値を上げる。


 「(これは僕の、基礎体力を育てる時間だ!!)」


 木剣での訓練は数時間続き、終わった頃の僕は地面の上で大の字になって寝転がっていた。


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 「今日はここまでにしておくとしよう。お前達、彼を部屋に運んでやれ」

 「ありがとう、はぁ……ござい、ました。はぁ……」


 親衛隊の人達に肩を貸してもらい、彼女が用意してくれた部屋へと案内……いや、運ばれた。運ばれた部屋にはベッドがあり、気付けば僕はそこに倒れ込むようにダイブしていた。そのまま僕の意識は徐々に薄れていき、やがて夢の世界へと旅立ったのである。


 「シンヤ殿、この後は食事を用意しているらしいのですが……」

 「良く見ろ。既にお休みだ」

 「私が、ジラルド様と姫様にお伝えしておこう。二人は彼の護衛と監視を」

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