011 親衛隊とジラルド ①
ダークエルフの里に辿り着いてから一時間、僕はリーシアの客人として保護される事になった。里を纏めている長である彼女が客人と公言した事によって、ダークエルフの里を歩き回れるようになったのは嬉しいのだけど……流石に一人で歩き回る事は許されなかったらしい。
護衛兼監視という事で、最初に対面したジラルドとその親衛隊数名が付けられた。彼女は彼を護衛に付ける事を避けようとしていたが、僕がそれを断って護衛にしてもらったのだ。
「シンヤ殿」
「はい、何ですか?」
「貴殿は何故、私を護衛にしたのですか?姫様が言うように、別の者の方が賢明なはず。それはシンヤ殿も理解しているのでしょう?一体何故、私にこの役を……正直、理解しかねます」
掟に厳しい彼の印象は、確かに警戒するには十分過ぎる材料だった。そして僕は、言葉を交わす前に殺されかけているのは事実。護衛から外そうとする方が、当然の判断だと言えるだろう。
しかし、僕が彼を護衛にした事を疑問が浮かんだのだろう。彼だけではなく、彼を含む親衛隊も疑問を抱いているようだ。事実、親衛隊である彼等も彼と共に僕の護衛兼監視という立場となっている。
「確かに、普通に考えれば僕は貴方達を避けるのでしょうね。そりゃ僕だって、命を狙われるのは勘弁して欲しいですし、正直言って死にたくありません」
「ならば何故」
「うーん……信頼して貰う為、でしょうか」
一度疑われた状態となった今、その疑念を取り払う事は難しいだろう。過去にも意見が割れたり、キッカケが小さくても折り合いが悪くなれば互いに警戒するのを見て来た。その警戒は抜ける事はなく、一度経験した感情を否定し切れる程に人間は簡単に出来ていない。
一瞬でも考えが過ぎれば、その考えに沿って頭が働いてしまう。だから僕はあえて、警戒して貰う事にしたのだ。
「只でさえ、僕は貴方達から見れば得体の知れない立場です。その上、森へ侵入した不審者という疑いもあります。リーシアさんは別の人をって言ってましたけど、それだと反対だって言う人が出てくる可能性もありますからね」
「だから、我々を側に置く事を拒絶しなかったという事ですか?ジラルド隊長はともかく、我々も置く必要は無かったのではないですか?」
「それじゃ意味がありません。貴方達は全員、僕を警戒している人達です。リーシアさんは表面上、歓迎してくれているみたいですけど」
「……」
「他の里の方々の中にも、僕を警戒している人達が居るはずです。それなら、皆さんが安心して任せられる方が警戒していた方が良いでしょう?幸い、ジラルドさんも含め、貴方達全員はリーシアさんにも認知されている。これ以上の適任者は居ないでしょう」
「っ……(この少年は、自分が警戒されている事を知った上での選択だったのか。我々に敵意が無いと示す為に、自らを死に近い状態へと置くのは相当な覚悟が必要だ。ましてや問題行動と我々が見做せば、すぐに首を落とされる可能性だってある。それすらも理解しておきながら我々を側に置くとは……)――末恐ろしい少年だ」
久し振りに人と話した所為で、どうやらテンションが上がっていたらしい。思わず必要のない事まで話してしまった気がするけれど、僕の考えを伝えた事に偽りは無い。もし疑われたままになったとしても、それは種族間では仕方のない事だと割り切るしか無い。
何故なら彼等は、ただこの場所を、森を、自分達が生きる場所を守りたいだけなのだから。それを脅かそうとする権利なんて誰にも無い。勿論、平和的に穏便に進むのであれば、僕もそれに越した事は無いと思う。
まぁ、可能性の話だけどね。
「そういえば、貴方達はリーシアさんの護衛でもあるんですよね」
「はい。ジラルド隊長を含め、我々は姫様の護衛にも務めております」
「僕なんかに時間を割いて、本当に大丈夫なんですか?」
僕の問いに応じていた親衛隊の一人は、チラリとジラルドへと視線を向ける。答えて良い物かと判断する為か、隊長であるジラルドの判断を仰いだのだろう。
「本来であれば、我々は姫様の護衛に務めたい所。ですが、姫様がシンヤ殿を客人とした以上、我々も無碍にする事は出来ません」
「あはは、何かすみません。僕なんかに時間を割かせるようになっちゃって」
僕と親衛隊の言葉を聞いていたジラルドは、僕から視線を外しながらも先程の言葉に応えた。
「案ずるな。姫様はお強い方だからな、我々は必要とされた時のみお側に居れば良い」
「なら、せっかく時間を割いてもらってるんだし……退屈な事はさせられないね」
彼等は僕の言葉の意味が分からなかったのか、小首を傾げて眉を寄せていた。そんな反応を見つつ、僕は彼等に広くて居住地が付近にない場所に案内してもらう事にした。
「ここは我々親衛隊が使っている訓練場でもある場所だ。貴殿の要望に叶う場所は、ここしか思い浮かばなかったが……ここで問題はないか?」
「はい、大丈夫です。寧ろ、ここの方が良いと思います」
僕は笑みを浮かべながら、再び彼等に頼む事にしたのである。
「それじゃ皆さん、僕に戦い方を教えてくれたりしませんか?」




