010 ダークエルフの少女 ③
――ダークエルフ。
ゲームや漫画に出てくる褐色肌で白銀の髪を持つ種族というのが、僕が彼等に抱いているイメージだ。同種族でありながら、光と闇という理由でエルフと相対している所や同じく弓を扱う事に長けているという部分はゲームや漫画と相違無い。
光属性を得意とするのがエルフであり、闇属性を得意とするのがダークエルフ。そんな風にイメージしていたが、彼女はさっき明らかに風属性の魔法を扱っていた。この世界に来て初めて、影の力以外を見る事が出来たのは大きな一歩だ。
「……」
「……」
そんな事を考えていると、前を見た時にジラルドが訝しげな視線を向けていたらしい。すぐに逸らされてしまったが、どうやら先程の謝罪は建前だったと思っていた方が良さそうだ。だが彼女が居る手前、迂闊に手は出して来ないだろう。
「さて、まずは自己紹介を致しましょうか。私はこの森を治めるダークエルフの長で、リーシアと申します」
「あ、えっと……僕はシンヤと言います」
「シンヤさんというのですね?ではシンヤさん、歩きながらで良いので、ここまでの経緯を聞いても良いですか?」
「分かりました。えっとですね――」
僕は彼女……リーシアを含めたダークエルフ達に、これまでの経緯を説明し始める。割愛すれば伝わらない部分がある為、転生した事も隠す事なく話した。微かに驚かれたが、すぐに彼女達は理解した様子で僕の話に耳を傾けてくれた。
「ビッグリントとウルフの群れに襲われた。良く無事に逃げ延びれたものだ」
「あぁ、それは運が良かっただけですよ。そういえば、狩った狼……えっと、ウルフの群れの死体は血抜きだけ済ませてあるので、後で取りに戻っても良いですか?」
「ウルフは食材として一般的だが、保存食として優秀だ。血抜き処理が行われていれば二日以上、捌いて保存すれば一ヶ月は保てるだろう」
「あはは……捌き方が分からないので血抜きしかやってないですね」
「先程言っていた洞窟にあるのなら、この者達に取りに行ってもらう方が良いだろう。血抜きしてるという事は、血の匂いで他の魔物を呼び寄せる可能性がある」
「そういう事ならお任せしますね」
僕はジラルドの言葉に同意し、出来るだけ笑みを浮かべて言った。血抜きしたとはいえ、ジラルドの言う通りになる可能性は高いだろう。素直に肯定されたのに驚いたのか、ジラルドは一度言葉を詰まらせながらも傍に居たダークエルフに指示を出した。
場所の説明もしているけれど、辿り着く事が出来るのだろうか。そんな疑問を浮かべていると、リーシアがクスリと笑みを浮かべて言った。
「大丈夫ですよ。この森は私達にとっては庭のような物ですし、森の精が道案内をしてくれます。何も問題はありません」
「精霊って事ですか。僕にも見えたりします?」
「んー、どうでしょう。魔力を有してるのは分かるんですけど、シンヤさんは闇属性との相性が良いようですから。機会があれば、闇の精霊と話す機会が来ると思いますよ」
ニコリと笑みを浮かべるリーシアは、いつか僕にも精霊と話せる機会が来るかもしれないと言った。そういえば、姿は見えていないけれど……シャドウの存在は精霊という事になるのだろうか。
「そうなると良いですね。(シャドウ、今大丈夫?)」
――……。
「(あれ?シャドウ?……寝てるのかな?)」
シャドウの事を聞こうと思ったのだが、反応する気配がない。闇の精霊であれば、影の力が使えるのを納得したのだが……それはまたの機会に聞くとしよう。
「さぁシンヤさん。ここが私達の森であり、ダークエルフの里になります」
リーシアがそう告げると同時に、僕の視線は差し伸べられる手の先へと向いた。ゲームや漫画でしか見た事の無かった光景と培ったイメージが、目の前の光景を見て胸を躍らせざるを得ない。
憧れた世界の風景通りとは行かないけれど、大樹に沿って造られている家や階段、蛍のように飛び交う球体。自然と共存するという言葉が相応しい程、これは神秘的な光景だと言っても過言ではないだろう。
「凄い……」
地面から生えている草木や水場にある岩の苔には、足元を照らす為に光を発しているようだ。森で太陽の光が遮られる場所があるから、これで補っているのかもしれない。そんな事を考えつつも、僕は周囲の様子を見渡す限りに眺めていた。
「貴殿の事を知らない者も居るのだ。無闇に歩き回らない方が良いだろう」
「あ、そうですね。すみません」
少しばかりはしゃぎ過ぎてしまったようだ。ジラルドは溜息混じりに言っているようだが、リーシアは微笑ましく僕の様子を見ていたらしい。これはこれで、気恥ずかしくなってしまう。
とりあえず気を取り直そうとしていると、リーシア達は足を止めて僕の前で振り返ったのである。
「それではジラルド、皆をここに集めて下さい」
「分かりました」
「少しだけお待ち下さい。待っている間、シンヤさんの事を教えてくれませんか?」
案内されたのは大きな部屋だった。かなりの広さもあるし、目の前には森の神を祀っているであろう銅像がある。教会のような雰囲気を感じるけれど、ともかく神聖な場所だという事は素人の僕でも分かる。
「つまらない話になるかもですけど、それでも?」
「構いませんよ」
「分かりました。そうですね……――」
僕は転生する前を含め、転生してからの事も改めて話した。自分ではつまらない話だと思っているけれど、彼女……リーシアはそれを楽しそうに聞いてくれる事が嬉しかった。
しばらくしてジラルドが戻り、里に居るダークエルフ全員が集まった。その瞬間、リーシアは少女から長へと雰囲気が変わり、里の同胞達に語り掛けたのである。




