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神様の遊び場  作者: 桜羽ひじり
7/15

6話「星篩の儀」

 ■■■鬼ごっこ開始まで残り3分■■■


 草原を離れてから俺は、山をひたすらに駆け登った。

 舗装(ほそう)などされていない、足場が悪い山道をずっとだ。

 ランニングのように軽く走っていたとはいえ、これはおかしい。

 普通なら数分で息を切らしてもおかしくないはずだが、軽い疲労感はあるものの、呼吸が乱れることはなかった。

 本当にこの世界では、息が切れないのか気になった俺は、足先に力を入れ、出せる限りのスピードで山を駆け登る。


 全力で走り始めてから約2分。

 ようやく息が切れ始め、足はじんわりと熱を帯び、乳酸がたまっているのがわかった。

 大地から足へと伝わる感覚、身体(からだ)の疲労感、頭を打つ脈拍、現実世界と全く変わらなかったが身体能力だけは数段違った。


「っはぁ、はぁ、なるほど……この感じだと、長い間全力疾走しなきゃ息が切れるってことはなさそうだな」


 (ひざ)に手をつき、その場で呼吸を整えていると、視界の端に、植物以外の何かが見えた気がした。

 木と木の間を凝視する。

 そこには、大木に寄り添うかのように(たたず)む、古びた(ほこら)が設置されていた。


「もしかして」


 祠に近づき、中に何かないか(のぞ)いてみると、小太刀(こだち)と小さな巾着袋(きんちゃくぶくろ)が置かれていた。


「お! もしかして鬼に対抗するための道具か?」 


 その小太刀は、黒の糸で編まれた柄、桜の花を模した(つば)、真っ黒で何の装飾もない(さや)といったシンプルな見た目だった。

 ミニ巾着袋は、これといって特徴もないベージュ色。

 中には何が入っているのだろうか。

 逃げるために役立つものだと助かるが……。

 手を伸ばし、小太刀とミニ巾着袋を手に取ると――


「っ!?」


 突然祠が輝きだした。

 あまりの眩しさに目を閉じてしまう。


 数秒後、チカチカする目を(こす)りながら目を開けると、先程まで存在していた祠は消滅していた。

 代わりに足元には、直径2m程の太陽と月の模様が描かれた陣が出現していた。


「何だ……? 」


 足元の陣をじっくりと観察をする。

 太陽と月といったシンプルな絵に反して、陣の縁は複雑な記号の羅列が書かれていた。


「これ、何かしら意味があるものだよな……」


 好奇心には勝てず、足を地面にこすりつけたり、ジャンプをしてみたりする。

 しかし、陣には何の変化も起こらないし、模様も消えなかった。


「うん? これ、どうなってるんだ? 砂を巻き上げても、消えないし、何も起こらない……」


 一度陣の外に出て、もう一度入ったらどうなるか気になり、試してみると、今度は陣が輝きだした。


「あ、やばっ――」 


 咄嗟(とっさ)に後ろに退(しりぞ)くが、俺の周りには(すで)に円柱状の光の(まく)が張られてしまっていたようで、陣の外に出ることは叶わなかった。

 風景が高速に切り替わっていく。



 次第に緩やかになり、完全に停止すると、光の膜が消えた。


「何度も何度も、一体何が――」 

「死ね」「……死んで」


 声が聞こえた。

 そう、頭で認識した時にはもう、顔の目の前に、二つの拳が迫っていた。


「あ――」


 死を覚悟した、その時だった。


「そう()くでない――黄鬼(おうき)白鬼(はくき)


 声と共に俺の前を何かが通り過ぎて行った。

 同時に目の前まで迫っていた、二つの拳が消えた。


「まったくお主達ときたら……この星篩(ほしふるい)の儀の意味、わかっておるのか?」


 気づけば草原で見た赤黒髪の鬼が、襲い掛かってきた二人を右手と左足で取り押さえていた。


「……ぐぅっ、離せよ赤錦(あかにしき)! こいつ殺せないだろ!!」「離して……重い……」

「はぁ、わかっておらんようだのう……これは、巫覡(ふげき)を見極めるための儀式。ただでさえ弱い人間に不意打ちしては意味ないじゃろう」

「弱い奴はいらねえ」「……ごめんなさい」

「よし、"白鬼は"わかったな」

「あ、白姫(しろひめ)おまえ! …………ちっ、わかったよ、早く離せよ赤錦(あかにしき)」 

「全くお主は……あと、ここでは赤鬼(せっき)と呼べ」


 冷や汗が止まらなかった。

 今、俺は赤鬼と呼ばれる男性が、黄黒髪の男の子と、白黒髪の女の子を止めなければ――

 死んでいた。

 冷静に考えれば、ただの子供のパンチ、死ぬわけがない。

 なのに、そう思わされる程の、そう想起(そうき)させる力が、あの拳には込められていた。 


「……ところで、大丈夫か小僧? まだ、生きておるか?」

「あ、はい……」

「ふむ、それならよし!」


 にっと、笑う赤鬼。

 何が起こったのか、どうしたらいいのか分からなかった。

 こいつらは、どう見ても草原で見たこのゲームの鬼役。

 本来なら俺を殺す役割を持つはずなのに、何故か助けられた。

 少しでも状況を把握しようと、周囲を見回すと――赤鬼、黄鬼、白鬼以外に青黒髪の女性、緑黒髪の男性が離れてこちらの様子を(うかが)っていた。


「赤鬼、私は他の者を見に行くぞ。ここで時間を無駄にするのは効率が悪い」

「俺もいくぜえ。ガキの面倒なんざ見てられねえ」

「ああ、行ってこい青鬼(しょうき)緑鬼(りょくき)。こいつらは(わし)が見る」


 赤鬼に一言告げた青鬼、緑鬼はあっという間に草原から姿を消した。

 アマテラスの言っていた意味を理解した。

『戦うことはあまりおすすめしないわね』『今の段階のあなた達じゃやられに行くようなものだから』

 明らかに身体能力が違う。

 50mを3秒で駆け抜けるような速さと言ったらいいのだろうか、人間とは一線を画す存在だ。

 戦って勝てるわけがない、逃げることも難しいこの状況でどうするか考えていると、赤鬼は(あき)れた様な表情で言う。


「それにしても小僧、運がないのう」

「え……? えっと、どういうことですか?」

「なんだ、小僧。まだこの状況を理解しておらんのか? 周囲をよく観察してみろ」

「周囲を?」


 もう一度、周囲を見回す。

 そして、ここがどこなのか再認識した。


「あ、この場所……」

「そうだ。お前は、ゲーム開始ほどなくして、鬼の出発地点である、この草原に転移させられたんだ」

「…………」

「いくつかある転移先のうち、まさかここに転移させられるなんてなあ……くくっ、あーはっはっはっはっはっ!! 本当、アマテラス殿もこれは予想外だろうのう……くくっ、小僧、お主面白すぎるぞ!」


 赤鬼の高笑いが耳を通り過ぎていく。

 あまりのことに声が出なかった。

 恐ろしさとかそういうのではなく、自分の運のなさに。

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