9話「黄鬼との戦い②」
最初に動き出したのは俺だった。
黄鬼の左側面を抜けようと動く。
当然黄鬼はそれを許すはずがなく、立ちふさがるように前に出ると、拳を繰り出した。
身体を横に捻り避ける。
攻撃の余韻が無くならないうちに、今度はこちらから小太刀を振るう。
しかし、深く踏み込んできていなかった黄鬼は、バク転で軽々と斬撃を避けた。
……やっぱり速いな。
どうにかして前に行きたいけど、この速さと力。
仮に黄鬼を抜いたとしても、背中が無防備になるだけ……。
どうにか黄鬼に深手を与えないと、このゲーム勝つのは難しそうか……。
「はっ、さっきまでの威勢はどうした? 小太刀を持ってるくせに素手の俺にろくに当てれねえじゃねえか!」
「……今考えてるんだよ」
俺の有利な点はリーチの長さと小太刀の攻撃力。
さすがの黄鬼もさっきの教訓からか、大きな隙を作らなくなった。
どうにかして、黄鬼にダメージを与えたいとこだが――
「こないのか? なら、俺から行くぜ!!」
「――っ!」
左肩へ一撃。
そこから右払い。
距離を詰めての腹部。
「ぐっぅ!」
身体が持ち上がる。
力の込められた拳は、再び俺を殴り飛ばした。
「ちっ、感触が軽い。当たった瞬間に後ろに飛びやがったか」
怒涛のラッシュに簡単に追い詰められてしまった。
初めの二撃は何とか避けられた。
しかし、重心が後ろに倒れた瞬間、黄鬼は距離を詰め、俺の腹部めがけて拳を放ってきた。
後ろへ飛んだおかげで致命的なダメージにはならなかったが、ガードした鞘越しに伝わる腹部へのダメージは決して軽いものではなかった。
「げほっ、げほっ……くそっ、反則だろその身体能力」
「おいおい、だらしねえなあ。反応はいいみたいだが……それじゃあこれで終わるぜ!!」
来る――!
このままじゃさっきの二の舞になるだけ……。
避けるだけじゃ駄目なら、こっちから!!
「やっと来たか! カウンターきめてやるよ!」
俺はこの状況を覆せるだけの一手を考え続けていた。
身体能力に差がある俺では、殴る、斬るだけではだめだろうと思ったから。
だから俺は、鞘のなかに"あるもの"を仕込んだ。
効果があるかはわからない。
けど、祠に置かれていたアイテムの一つ。
何の意味もないはずがない。
俺は祈りながら、黄鬼と距離がある今――"鞘"を振った。
遠心力に乗せられた玉が鞘の穴から発射される。
「あ˝!? てめえ何を――」
瞬時にそれに気づいた黄鬼だが、避けるまでの時間がないと判断したのだろう。
黄鬼は飛んで来る玉を左手でつかんだ。
「っっ!!?」
瞬間、黄鬼の手が弾け飛ぶ。
「がっ……!!! いっっってえええ!!!!」
痛みから黄鬼はその場でひざをつき、左手があった場所から流れ出る血を右手で押さえる。
あまりに痛そうな黄鬼の叫びと、流れ出る血につい足を止めてしまいそうになるが、すぐさま思い直し、黄鬼の横を走り抜ける。
「ごめん――でも、俺も死んでやるわけにはいかない」
小さな巾着袋に入っていた玉、もとい"豆"は黄鬼に致命的なダメージを与えた。
鬼に対抗するための手段がここまで一撃必殺のものとは思わなかっただけに、嬉しい誤算だった。
「――っ!! くそっ、こんな祝具っ、本物の身体ならなんともねえのに!!」
一本杉まで残り50m。
今となっては林も遠く、むしろ移動前にいた陣の方が近くなっていた。
「それにあいつ……あんな目で……人間のくせに! 俺をあんな!! 憐みの目で……!」
後ろを警戒しながら走るが、黄鬼は蹲ったまま動いていなかった。
一本杉まで残り30mを通過する。
あいつの手、痛そうだったな。
でも、依代とか言ってたし本体は大丈夫なのか? それなら手も元通りだし、生活に支障は……いやいや、相手の心配してどうする、俺は今あいつに殺されかけてるんだ。気を緩めずに走れ俺!
自分に喝を入れ、足に力をいれる。
その時だった。
「許さねぇ……許さねぇ許さねぇ許さねぇっ!!!」
後ろから悲鳴にも似た叫びが聞こえてきた。
後ろを振り返ると、さっきまで蹲っていた場所に、黄鬼はいなかった。
「祈祷術【火雷】」
そう声が聞こえた時、黄鬼は既に――俺の懐で拳を構えていた。
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