バーチャルでリアルな世界
二人を待って数分。
アバター作成に時間がかかると思ったからチョコアイスを食べていた。ここはバーチャル空間で本当に腹が膨れるわけではないがデータ上に感触や味、匂い、舌触りが何億通り存在している。なのでデータを組み合わせて料理を再現できて、食べることができる。
それが僕が食べているアイスクリームと言うわけだ。リアルとは違い何時間も放置していても溶けることはないが逆にアイスクリーム内の設定を弄れば程よく溶けるように設定できる。
僕が食べているアイスは設定を完全に凍っている見た目なのにプリンのようなプルンとした柔らかさを再現しつつ、口に入れれば暖かいさを感じるようにしている。
現実では到底できない物を口にしている。リアルでは食べられない物を食べれるのはバーチャル特有のよさだ。
昔は暇潰しにいろいろ試したけど、どれも食べ飽きた物ばかりだったりするが、今はアイスに暖かい感触にしているだけだ。
「二人ともまだかな?」
「お待たせ待った?」
誰かが来たみたいだ。設定でリアルと声とか違うようにできるから判別ができないや。そしてどんなアバターにしたのかな?
「えっ?嘘でしょ?マンバがここに」
来た人物を見た途端トラウマが蘇った。
そこには人のシルエットをした肉の塊がいた。300年前にハマったホラーゲームのボスでハメ殺しコンボを繰り出すマンバの名前を持つ、肉塊のクリチャーがそこにポツンと存在していた。
「マンバって何?間違えてこんな魔物みたいな姿になっちゃったよ。変えることってできるのかしら?ゲノムくん聞いてる?」
トラウマが蘇った僕は固まってしまった。
当時の僕は初見でマンバに挑んであえなくハメ殺しコンボを受けてゲームオーバーになった。それから何回か挑んだがハメ殺しコンボを繰り出すマンバを倒すことはできなかった。トラウマになってそのゲームを起動することはなかった。そのせいで100年ほどホラーゲームはやらなくなった。
目の前のマンバは完全に再現されていて僕は怖くて震えていた。
中身はトリスかモニカのどちらかってことは頭でわかっているけど見た目がすごく怖いよ。トラウマのクリチャーだしさ、僕に何か恨みでもあるの?
「お待たせギャー、なんでモンスターがここに」
マンバの後ろから女の子が出しちゃいけない悲鳴が聞こえた。マンバの後ろに現れたのは小さな光の塊で、目を凝らして見ると小さな身体に背中から虫みたいな羽が生えた小人だった。
正確には妖精。あんなかわいらしいキャラクターまで作成できるのかと感心した。
妖精もマンバに驚いて固まっていた。
当然驚くよな。サーバーに入ったらこんな化け物がいるんだから。
「えっ、かわいい妖精がいる。あの人がゲノムくんだと思うから、ということはこの妖精はトリスってことなの?」
「あなたモニカなの!」
トリスは自分の目の前にいる化け物がモニカと気づいたみたいだ。
モニカはマンバで、あの妖精がトリスなのか。
「モニカは?その姿にしたの?」
「それはいろいろ試していたら間違えて決定ボタン?を押してしまいまして、それでゲノムくんに姿を変える方法を教えてもらおうかとしたらゲノムくんが固まってしまったの」
「そりゃ、そんなおぞましい姿が急にビックリというか怯えるよ。あれがゲノムくんね。少し涙目になってない?」
かわいらしい妖精ことトリスはマンバがモンスターではなくモニカだとわかったからかバーチャル空間内を自由に飛んだり、僕の回りをくるくると飛び回っている。マンバにトラウマがある僕は少し正気になったがモニカに近寄れない。
ハメ殺しコンボをしてこないとわかっているものの身体が拒否反応を起こしている。
そして僕のアバターはリアルの身体に姿見は似せているものの、少し大人びているアバターにしている。ようするに自分のリアルの身体を歳取らせた青年の姿にしているのだ。
幼い子供の姿には飽々していて50年前にこのアバターに作り替えた。その方法をマンバもといモニカに口頭で説明する。
「お、おぷ、オプションと唱えるとオプション画面が視界にポップアップされるのだけどそこでアバターと書かれている項目があるはずだからそこに触れると」
「こんな姿は嫌だから早く人の体に戻りたいの。どれどれ、オプション!うーん、何が書いてあるのかわからないよ。ゲノムくん見ながら説明してよ」
吃りながらも説明したが肉塊の姿が気に入らないモニカが僕の説明を最後まで聞かずにオプション画面を開いたものの視界に映った文字が読めないようだ。オプション画面に書かれている文字が読めないから見ながら説明するように求めるが、モニカの目に映るオプション画面は僕には見えない。大昔のプライバシー保護のために自分だけしか自分のオプション画面を見ることができないようになっている。プレイヤー側はだけど。ママは当然バーチャル空間のシステムをコントロールしているからモニカのオプション画面が見えている。というよりかはママがモニカにオプション画面を見せているのだ。
その事を知らないマンバの姿をしたモニカが僕に近づいてくるから僕はマンバが一歩近づくたびに一歩離れる。
ママ助けてよ!